アプローチの距離感はロングパットと同じ
「桜美式」では生徒たちに、まずはこう言ってあげています。「アプローチは、高度な技術なんて要らないし、猛練習もしないでもいいほど簡単ですよ」と。
「桜美式」は、アプローチに対する考え方が、これまでの常識と大きく異なります。ゴルフのスウィングは、3つあるとされていますよね。ひとつめはショット、ふたつめはアプローチ、3つめはパッティングです。ショットは「打って飛ばす」、アプローチは「上げて寄せる」、パッティングは「転がして入れる」、というのが、ほとんどのゴルファーが抱いている3つのスウィングに対する固定観念です。
最近では、アマチュアでもロフトが56度や58度といったウェッジをグリーン周りから使用するケースが多く、「上げて寄せる」ことに躍起になっています。それは、テレビで目にするプロの影響もあるでしょう。大きなトップから、開き気味のフェースを素速く振り抜き、高い軌道で距離を出さず、ピンをデッドに攻めていく。そんなアプローチこそがカッコイイと思われている風潮があります。
フワリと上げて、ピタリと止まるアプローチ、憧れますよね。でもそれは猛練習の末に高度な技術を身につけたプロだから成し得る「曲芸」と言っていい。アマチュアがプロの真似をして、わざわざ難しい選択をする必要などない。私からすれば、プロの真似をして失敗し、無駄にスコアを悪化させているアマチュアこそ、カッコ悪く思えます。
「桜美式」では、アプローチもパッティングと同じでいいと教えます。アプローチとパッティングの違いは、グリーン上に球があるかないか、そして球が宙に浮くか浮かないか、ただそれだけ。打ち方自体は、「ロングパットの、さらに距離が長くなったのがアプローチなんだ」と。
ショットやパッティングの他に、アプローチという特殊なスウィングがある従来の常識だと、アプローチだけに用いる特有の「カタチ」を身につける必要が出てくる。だからレッスン書などには、事細かくアプローチのカタチが示されていますよね。球を左足寄りに置き、ハンドファーストに構え、インパクトで手首の角度を変えず、右ひざを左へ送り込む、などなど……。
しかし、人間はカタチにこだわればこだわるほど、感覚が殺されてしまうもの。手首とか右ひざとかのことを考えてしまった瞬間に、本来はどんな機械よりも精密にできている人間の脳のコンピューターの機能が低下し、導き出される距離や方向の感覚が曖昧になってしまうんです。
つまり、アプローチでも、ロングパットのときのように、自分の目で見て脳で計算された距離や方向の感覚を生かすべきなんです。
そのためには、「上げて寄せる」という技術を習得しようとするよりも、パッティング同様に、「転がして入れる」ほうがいい。
すなわち、ピッチショットでも、ピッチエンドランでもなく、ランニングアプローチ。「桜美式」ではランニングアプローチとは呼ばず、「ロングパットの延長」と呼んでいます。
「10本で握る テンフィンガースウィング」(ゴルフダイジェスト社)より