テークバックは「クラブヘッド」から
平成15年2月。オーストラリアで有名なゲーリー・エドウィン・ゴルフ・アカデミーのA級ティーチングプロのライセンスを持つトム・フィールディング氏のレッスンを受けるため、シンガポールへ渡った。
トム先生はレッスンを始める前に、テークバックの始動について私に質問してきた。
「バックスウィングのスタートはどこから始めますか?」
例によって日本語の質問だ。そら来たとばかりに、私は「ワンピースでスタートすることだと思います」と、即座に答えたのだが、トム先生からは「違いますね。クラブヘッドからです」と、まったく予想外の答が返ってきた。
そのころ、日本のレッスンでは、クラブヘッド、両手、両肩、両腰が一体となって、ヘッドを後方へ動かし始めるというワンピースのテークバックが大原則であった。
ヘッドから上げるテークバックは、両手主導のスウィングになり、肩や腰の十分な回転を損ねるという理由で、むしろ矯正の対象であった。
しかし、この方法もやはり新打法と関係があるかもしれないと思って、まずはトム先生のいうとおりにやってみることにした。
しかし、このレッスンはいい加減に聞き逃さなくてよかったというのが、後になっての思いである。
前述のテークバックのときに左ひざが前に出る動きも、新しく指摘されたクラブヘッドからバックスウィングのスタートを切るのも、トップで上体のねじりを強くするのに、大変役立つことがわかったからである。
つまり左サイドを中心にしてクラブヘッドからテークバックすると、自然に左ひざが前に出て下半身の動きが制限され、上体のねじりが強くなるということに気がついたのである。それはちょうど消しゴムの下端を固定して、上端を指でつまんでねじるようなものだった。
有名なアメリカのティーチングプロ、デビッド・レッドベター氏は、ゴルフ専門誌「GOLF DIGEST」2002年1月号に「新しいスウィングはここから始まる」というテーマで、新スウィングのいくつかのポイントについて詳しく書いている。
その中に「バックスウィングの中間点では、私の両肩はすでに両腰よりも多くターンしている。そして私の下半身はしっかりと安定し、両手首はフルコックしている」と、トム先生と同じようなことを書いているのだ。明らかにクラブヘッドからテークバックを開始しているとわかる解説である。
さらに「最大のパワーを得るために必要なのは、バックスウィングの中間点での上体のコイルである」とレッドベター氏は結んでいる。レッドペター氏の理論は、下半身の動きを少なく、上半身の十分な回転で強いバネをつくり出そうという考えなのである。
これでバックスウィングのとき左ひざが前に出ることも、テークバックのスタートでクラブヘッドから動き始めることに対しても、私の違和感は消えていった。
「ゴルフ、“死ぬまで”上達するヒント」(ゴルフダイジェスト新書)より
撮影/有原裕晶