ゴルフ場で「通せんぼ仕草」していませんか
連れと横に並んで道をふさいで歩いて行く人たちがいます。江戸時代には「通せんぼ仕草」と言われました。江戸の町人社会には円滑な共同生活のための作法が二百ほどありましたが、「通せんぼ仕草」はその中でも数少ないしてはいけない嫌われ仕草。「おいおい、背中にも目をつけなよ」と叱られました。
平成のゴルフ場にも「通せんぼ仕草」のプレーヤーが大勢います。
オナーなのになかなかティアップしない悠然たる方がおられます。ティアップしてからもプレショットルーティンとやらで入念に素振りを繰り返し、それからティの高さを直したりなさる。その気づきたるや悠然の極み。ようやく本番で振ってくださったと思ったらOBで、そういうお方に限ってポケットに打ち直し用のボールのご用意がありません。あたりは呆然。
第二打地点。二本線のヤーデージ杭の前で「キャディさーん、あと何ヤード」と尋ねる甘え癖のついたお方がおられます。尋ねないでご自身でボールから後方のヤーデージ杭まで戻って歩測している人がおられます。こちらは一見レベルが高そうに見えますが、いやいや、ボールまで来るときに手前の杭から歩測して来ればよろしかったのに。
前が一ホール空いていて、後ろが待たされているのに、目は前後の組になく、ただご自分のパッティングラインにのみというお方もおいでです。イーグルでもバーディでもなさそうなのに、行ったり来たりなさってから、今度はパターを顔の前に吊るしてウインクしていらっしゃる。
どうもプロと同じことをなさろうとしておられるようで。それもテレビで観る土日のプロと同じことをです。あれと私たちのゴルフとは、三つの違いがあることを考えていただかないと困ります。
一つはプロたちのゴルフはお仕事だということ。一打一打に人生と家族の生活がかかっています。
二つ目は、あれだけ入念にやってそれだけの結果を出せる技術の持ち主たちだということ。数ヤード刻みに打てる技術者なのです。
パターを吊るしてシャフトが垂直になるのは一角度だけしかありません。ままよそれをご存知だとしても、青木さん式ラインの読み取りは、何度聞いても一般には理解できない感性の技法なのです。
三つ目の違いは、プロたちの三、四日目は前後十分間隔で、二人か三人で回っているということ。私たちは四人で六分か七分間隔です。やりたくても省かなければならないことがあるわけです。
京都のお宅でうっかり長居をすると「ぶぶ(茶)漬けでもどうどす」と言われるそうです。 「いや長居をしてご無礼いたしました」と気づかせる京都式追い払い法です。 不意の訪問、長居、人を待たすこと。江戸仕草では「時間泥棒」と言いました。 ゴルフの時間はコース内でプレー中のみんなの共有時間です。ゆめゆめ平成の四人組時間泥棒になりませんように。
「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より
撮影/大澤進二