石川遼が初優勝した試合。2打リードの状況からの「2オン」狙いは是か非か
デビューした頃(80年プロ入り。その年に6勝して、賞金ランキング2位につける)は、当時トップアマで親交のあった中部銀次郎さんや阪田哲男さんに「お前みたいな無謀な攻め方をしていると流れが悪くなるぞ」と言われたことを思い出します。もちろん、自分では無謀だなどとは思っていませんでした。でも、周りにはそう見えたのでしょう。
こういうことは、たとえば石川遼くんがプロ入り初優勝したときのゴルフを見て、無謀か無謀じゃないかと言うのと同じだと思います。彼は、2008年のABCチャンピオンシップで、最終日最終ホールのパー5、2位に2打差の首位ながら、セカンドで池越えのグリーンを強気に狙って池につかまりました。
結果、そこからウォーターショットでグリーンに乗せ、ツーパットのパーで逃げ切ったわけですが、ああいうゴルフというのは、本当にそのときの彼の勢いがなせる業だと思うけれど、非常に危うい勝ち方だったとも思います。逆に、1勝目であの勝ち方ができたっていうのが彼の非凡なところでもある。
ただ、あれはたまたま勝ったけれど、一歩間違えれば負けていてもおかしくなかった。少なくとも勝っためのマネジメントとは言えませんでした。我々プロは3打差だろうが1打差だろうが、勝てばいいわけです。
ですから、相手とのスコア差によってはマネジメントが変わってくる、ということがある。つまり、スコアの差が大きいときには、より安全なマネジメントを選択する可能性もあるということです。
たとえば、最終日最終ホールがパー4で、3打リードして首位にいる。そして、左右どちらかにOBがあるとします。そうしたら、相手がどんなにナイスショットをして飛距離を出したとしても、自分は絶対OBを打たないクラブでティショットをするし、ピンがどこに切ってあろうとセカンドはグリーンのど真ん中に打つ。なぜなら、相手がバ ーディで、自分がボギーでも追いつかれることはないからです。
同じように2位と3打差あって、最終日最終ホールがグリーン手前に池のあるパー5 だとしたら、セカンドがグリーンに届く距離にあっても、無理に狙わず確実にパーを取りにいく。そうすれば、相手がイーグルでも追いつけないし、そういう堅実なプレーをしておけば、相手が無理をして自滅するケースも出てくるわけです。
それがリードしているときのマネジメント、勝つためのマネジメントです。石川遼くんの例で言えば、勝つマネジメントということで言えば、無理に狙う必要はなかったわけです。
とはいえ、私はあのプレーが間違いだった。刻むべきだったと言っているわけではありません。先ほど、私の昔話をしましたが、遼くんも同じなのです。 今の私たちからすると、あの勝ち方は納得できないと思うけれど、彼にしてみれば、自信を持って打ったショットだったと思います。
セカンドが池に入るなんて思っていなかっただろうし、入ってもそれは打てるという計算の上で打ったのでしょう。タイガー・ウッズや尾崎(将司)さんにしてもそうだったと思います。その時代の常識から外れると、ときに批判の対象になったりもする。それでも勝てばいいとは言いませんが、周りの常識を打ち破る力というのは、そういうものなのかなという気がするのです。
「本番に強くなるゴルフ」(ゴルフダイジェスト新書)より
撮影/岩井基剛