全米プロ2連覇を遂げたブルックス・ケプカだが、最終日は猛追を見せたダスティン・ジョンソン(DJ)への声援がコース内を満たす中でのプレーを強いられた。ケプカはどういった心構えでプレーしていたのか。海外ツアー取材歴20年のゴルフエディター・大泉英子が語る。

DJへの声援をバネに気持ちをリセットした

タイガー・ウッズのメジャー復活優勝に、ゴルフファンのみならず世界中のスポーツファンが狂喜したマスターズから1ヶ月。誰もが彼のメジャー15勝目を、過去優勝経験のあるベスページ・ブラックコースで期待したが、現実はそう甘くはなかった。

3日目のプレーを終えて、2位と7打差という全米プロ史上最多の大差をつけて最終日の試合に臨んだブルックス・ケプカが、ダスティン・ジョンソンを2打差でかわし、全米プロで2連覇を遂げた。

2017〜18年に達成した全米オープン2連覇に続く、2018〜19年の全米プロ2連覇は、同じ時期に2つのメジャーで連覇を果たしたゴルフ史上初の快挙。また、2年間でメジャー4勝は、ベン・ホーガン、ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズに次ぎ4人目だ。

彼はツアー通算6勝を挙げているが、そのうち4勝がメジャー優勝。誰もが1度は勝ちたいと願うメジャーで2年間で5割の勝率を挙げるとは、異次元の強さだ。この優勝により、ダスティン・ジョンソンを交わして3度目の世界ランク1位に返り咲いた。

画像: 全米プロ2連覇を遂げたブルックス・ケプカ。優勝によって世界ランクも1位に

全米プロ2連覇を遂げたブルックス・ケプカ。優勝によって世界ランクも1位に

「今日は難しい1日だった。コースも難しく、ストレスの多いバトルの1日。だが、たぶん今回の優勝は、過去のメジャー優勝の中でも、1番満足した試合だろう。18番ホールは、過去のゴルフ人生において最も興奮したシーンだったよ」

彼の鍛えられた肉体同様、ブレのない精神力と底力で最終日も大差をつけたまま、余裕の圧勝を遂げるかに思われたが、2連覇を狙う彼にも試練は与えられていた。一つは強風という気象条件、もう一つはアメリカ人選手でありながら、ケプカの優勝よりもダスティン・ジョンソンの優勝を願ったファンたちからの「アウェイ感」、そして兄貴分・親友でもあり世界ランク1位のダスティン・ジョンソンの猛追の影である。

画像: 最終日、ケプカに1打差まで迫ったダスティン・ジョンソン

最終日、ケプカに1打差まで迫ったダスティン・ジョンソン

強風に関しては、誰もが同じ条件の中でやっているので、ケプカだけに難しかったわけではない。スタート前の練習時から風が強く吹き時始めていたことを感じていたケプカだが、風向きの急変に対処しきれず、ラフに打ち込んだり、やってはいけないタイミングでミスを犯した。

日頃から熱心にジムに通い、タイガーからも「ブルックスの筋力があれば野球選手にもなれる」とそのアスリートぶりに太鼓判を押されている彼のスイングをもってしても、強風吹き荒れるベスページではミスが出た。最近のラウンドでは記憶にないという「4連続ボギー」を叩き、一気にダスティン・ジョンソンに1打差まで詰められたが、その時の心境はどんなものだったのだろうか?

「14番ホールが終わって、その時1打差であることは知っていた。そのあと僕が15番でティショットをフェアウェイにキープした時、DJ(ダスティン・ジョンソン)がボギーを叩いて2打差がついたこともわかった。フェアウェイにボールをキープさえすればいい。ショットもいいし、パッティングもいいんだから。自分の狙ったラインに打ち出していければいい。気持ちをリセットして、パーを拾っていけばいいんだ。このコースはたくさんバーディが出るコースじゃないんだから……」

ダスティン・ジョンソンは、松山英樹とともに2組前で回っていたが、ニューヨークのゴルフファンたちが送るDJへの熱狂的な声援は、最終組を回る彼の耳にも届いていた。ダスティンがバーディを取り、一つ一つその差を縮めるたびに湧き返る大歓声。誰もがケプカの余裕の圧勝よりも、ダスティンの逆転優勝劇が見たかったのだ。しかし4連続ボギーを叩いてショックを受けていたケプカはDJへの声援を聞いて目が覚めた。

画像: ギャラリーたちの“DJムード”にケプカは……?

ギャラリーたちの“DJムード”にケプカは……?

「みんながDJを応援しているってわかった時に、僕は気持ちを切り替えるいいタイミングだと思った。“わかった。大丈夫だ! みんなが自分に対してアゲンストだってことはわかったから、もうやるしかない!”って」

DJへの声援をバネに、ケプカは気持ちをリセットし、とにかくパーを取り続けることに集中した。そして最終18番ホールを迎えて2打のリード。ダボさえ叩かなければ優勝が決まる。1打目はドライバー以外のクラブで打つことは考えなかった。仮にバンカーやラフに入っても、そこから出してパーを拾えばいい、と思った。実際、バンカーに入ったケプカは、3オンでグリーンをとらえ、ウィニングパットを決めると雄叫びを上げて優勝を喜んだ。

画像: 18番のパットを決め、雄叫びを上げるケプカ

18番のパットを決め、雄叫びを上げるケプカ

さて、ここで説明しておきたいのは、ケプカが決して人気がないとか嫌われているというわけではない、ということだ。実際、私もケプカのラウンドについて歩き、「ブル〜ック!」「ブルクシー〜!」など声援を送るファンたちを大勢見た。

しかしなぜか彼は、メジャーで何勝を挙げようと、歴史的な記録を樹立しようと、タイガー・ウッズやフィル・ミケルソン、ローリー・マキロイ、あるいはメジャー優勝してすらいないリッキー・ファウラーのような熱狂的なファンがいない。

ちなみに試合前に行われた公式記者会見でも、空席が多く見られ、今回の優勝後の会見でも席は全て埋まってはいなかった。通常、タイガーやミケルソン、マキロイたちなら立ち見が出るほどの勢いである。風貌が今ひとつ地味だからか、あるいはデビュー当時から鳴り物入りでプロ転向したスター選手ではないからか……。

メジャーで1勝を挙げているだけにとどまるセルヒオ・ガルシア、アダム・スコット、ジェイソン・デイらのほうがまだ華があり、人気があるように見える。

メジャーで圧倒的な強さを見せつける点では昔のタイガーも同じだが、サイボーグのような彼のゴルフは何か今ひとつ魅力に欠けるのかもしれない。タイガーはティショットを曲げても、2打目でミラクルショットを放ち、ピンそばにつけてバーディ、などという場面が多く見られた。そんなプレーぶりやタイガーの人間臭さにギャラリーたちは大いに沸いたものだ。

画像: メジャーで圧倒的な強さだった昔のタイガー。その人間臭く魅力的なプレーにギャラリーは沸いた(写真は2000年の全英オープン)

メジャーで圧倒的な強さだった昔のタイガー。その人間臭く魅力的なプレーにギャラリーは沸いた(写真は2000年の全英オープン)

かつて、彼がまだ米ツアーのシード権を持たず、ヨーロピアンツアーで世界中を転戦していた頃、ターキッシュエアラインオープンでツアー初優勝したが、この時の試合を私は見ている。まだ今のように筋肉ムキムキでもなく、垢抜けないフロリダ出身のプロという感じだった。だがその頃の彼は、今よりも気さくで、素朴で話しかけやすかった。顔を合わせると必ず挨拶してくれ、取材にも気さくに応じてくれたものである。

当時の彼女は元サッカー選手で、ダンロップフェニックスで初優勝した時にも連れてきていたが、私にも紹介してくれた。その数ヶ月後、彼女とは破局し落ち込んでいたので、「あなたならまたいい彼女ができるわよ」などと励ましたこともあったが、その後で現在のミス・ジョージアでモデル・女優のジェナ・シムズさんと交際を始め、メジャーで初優勝を遂げている。

その後の彼は正直、昔のような素朴で親しみやすい雰囲気が薄れてきてしまったような気がする。またこれはどうでもいい話だが、有名人になったからか歯のホワイトニングもしっかりやっているようだ。プライベートジェットに乗り、セクシーな美女と交際し、セレブ感を醸してはいるが、なんとなく……。

メジャーで優勝し、世界の頂点に立つと人間が変わってしまう人もいれば、アダム・スコットやジェイソン・デイ、フランチェスコ・モリナリなど変わらない人もいる。昔と変わらぬ素朴さと親しみやすさを持ち続ければ、彼がピンチに立った時に力になってくれるファンが、もっと増えるはずである。

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