カップインしたボールはカップから少し離れたところから手を伸ばして拾うのがマナーのひとつ。ゴルフマナー研究家・鈴木康之の著書「脱俗のゴルフ」からマナーにまつわるエピソードをご紹介。

グリーン上に富士山を作るな

超の字のつく高速グリーンで知られたトーナメントを見に行きました。ワンピン近くに寄ったボールがことごとくホールをかすめ、止まらずに一メートルもオーバーしてしまい、返しがまた外れて、プロたちをたいそう不機嫌にさせていました。

いいパットを決めた機嫌のいい人はホールから離れて上半身を伸ばし、ボールを拾いますが、しくじって不機嫌な人ほど目は足元になく、ホールに十センチものところを踏みつけて拾う。二人に一人は跨いで行きました。

画像: カップインしたボールは腕を伸ばして拾おう

カップインしたボールは腕を伸ばして拾おう

タイミングよくその数日後でした、ゴルフ書コレクターのMさんが一九六八年の古書からあるページを見つけ、拙著『ゴルファーのスピリット』や『ピーターたちの ゴルフマナー』の中と同じことが書いてある、とページのコピーを送ってくれました。

それは、日本アマ二連覇などの輝かしい戦績を残した三好徳行さんの本『アマ・ゴルフの設計』の中のものでした。以下「」内はそこからの引用です。

ホールの近くはその日プレーする全員に踏まれるところだから、「ホールのすぐフチの一フィート(十センチ)以内は割と踏まれていない。問題はその外側である。一番多く踏まれて凸凹になっている。押さえつけられて低くなっている。ホールのすぐ周辺は踏まれていないので高いままだ」

そこにホールの中心で切った断面(側面)図が添えてあります。ホール周辺が低い富士山の形をしていて、私が講演などでスライドで見せている図とも同じ形です。

「極端にいえば富士山のスノ野から打ち上げて、頂上の噴火口に球を入れるようなものだ。だから出足が少しでも狂っていたら傾斜によって球はホールからそれてしまう」

あるコースのグリーンキーパーからも同じ現象の証言を聞いたことがあります。つるつるの超高速グリーンで、プロたちのボールがプロの読みにもかかわらず一様に僅かに反れて過ぎて行くのは先行組の踏み跡のためだ、と私は見ていました。

ミケルソンやエルスたちがニューッと右腕を伸ばしてボールを拾っているのは、自分たちのだいじな仕事の場であるホール周辺を丁寧に扱う作法で、ゴルファーの品性が感じられます。

反対にミスパットで不機嫌になり、品性を失い、ホールすれすれを踏みつけるプロが少なくありません。困ったものです。同業者への遠慮か、そのことを話さない放送関係者も困ったものです。ギャラリーの不作法だけでなく、プロの不作法もきちんとコメントしてくれれば、テレビを見ている何百万のゴルファーが正しいマナーを覚えてくれますのに。

ホール周辺の踏み跡は真っ昼間、上からではなかなか視認できません。そこで三好さんはこう書いています、「もしどのくらいひどい状態になっているか見きわめたいなら、夜間ロウソクをグリーンに立てて見るとよいだろう」

ま、そこまでするには及びません。スタート前の早朝や夕刻は陽が低いところから差します。グリーン上で片足に体重を乗せ、退けて見てください。横からの陽の光で、これじゃボールが反れるはずだ、と納得できる跡がよく見えます。

「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より

撮影/姉崎正

This article is a sponsored article by
''.