伝統がありながらも、革新的な商品を世に送り出していた
全米オープンで優勝したゲーリー・ウッドランドが、ウイルソン契約であることが話題になっているが無理もない。マグレガー、スポルティングと並んで、ウイルソンが御三家と呼ばれていた時代も今は昔。今世紀になってからは、ウイルソンのクラブの存在感は、非常に小さなものになってしまっている。
国内では、2008年からドルフィンウェッジやパワートルネードでおなじみのメーカー、キャスコが販売代理店となっているが、そのことすらあまり知られていないだろう。当のキャスコもそれほど力を入れているようには見えない。現に、ウッドランドが使用しているアイアン、「スタッフモデル ブレード」も国内での取扱がなく、現在は並行輸入品でのみ購入が可能という寂しい状況だ。
筆者が印象に残っているのは、90年代後半に、かのジョン・デイリーと契約したことだ。その後もコロコロと契約を変え続けたデイリーだが、ウイルソン時代は、円盤のようなヘッドにホーゼルが挿入された「インベックス」という特異な形状のドライバーを使用していた。
また、タイガー・ウッズの登場まで飛ばし屋の名をほしいままにしていたデイリーは、1番アイアンよりもさらにロフト角の立っている0番アイアンをバッグに入れていた。石川遼が同じ名前のアイアン型ユーティリティ(ヨネックス)を使うよりも10年以上前の話だ。一応、市販されていたのだが、打ちこなせたゴルファーはどれだけいたのだろうか。
「ファットシャフト」というものもあった。その名の通り、シャフト先端の太さが一般的なものよりも35%も太いというアイアンだ。シャフトのねじれを抑え、パワーロスを減少させるというコンセプトで、同時代にはなかなか評判が良かったと記憶している。
とはいえ、なかなかのキワモノ揃いではある。御三家という言葉から連想する正統派の印象とは異なり、良く言えば、大胆なアイディアを世に問う挑戦的な時代だった。惜しむらくは、商業的な成功がついてこなかった。
3年前、イーデルゴルフが日本に上陸する際、主宰するデービッド・イーデル氏にインタビューする機会があった。クラブの歴史にとても造詣が深い彼は、「ゴルフの歴史の中で最も優れたウェッジはなんだと思う?」と聞いてきた。私は、クリーブランド「TA588」か、ピン「アイ2」だろうと答えた。我ながら、極めて常識的な回答だ。
しかし、イーデル氏は、「ウイルソンの『R90』がベストだ」と言った。「R90」を知らない人は、画像検索してみて欲しい。ソール幅が広く、バウンス角が大きな、今で言うお助けウェッジのような形状だ。その意外な答えには、ウェッジにはもっとバウンスが必要だという、彼のポリシーが感じられた。
とりとめのない話をあれこれと書いてしまったが、私の中では正統派ブレードアイアンの印象が強かったウイルソンは、一方で斬新なアイディアを盛り込む革新的なメーカーだったのだと改めて思い至った。そう言えば、アイアンのスルーボアもキャロウェイよりずっと早かった。かつてのウイルソンを知るゴルファーには、今回の唐突にも思える復活劇が好ましく思えたのではないだろうか。
実はこの文章は、ウイルソンの生んだ傑作のひとつ、『8802』、『8813』パターの話を書くつもりだったのだ。L字型パターの代名詞であり、極上の打感と操作性を持ったパターだが、評価の定まったこれらのパターについて触れるのは蛇足という気がしてきた。またの機会に譲ることにしよう。