「エチケットを守れない人は当クラブから除名します」 エチケット委員会K委員は稿をこう書き出しています。創設六十周年を迎えた室蘭GCの会員誌『いたんき』の一九六四年四月号に載った稿です。
さすがは先人、胸がすくような喝破だと思ったのですが、文は句点で結ばれず、「こんなルールが出来兼ねないほどエチケットの乱れが目立ちます」となります。
気持ちトーンダウンしたかに思えますが、檄は続きます。「ベテランのゴルファー諸氏よ、どうぞ貴方だけが守るばかりでなく、パートナーのビギナー氏への御指導もして下さい。ビギナー諸氏よ、エチケットはゴルフの第一課であります。この過程を素通りして貰っては困ります。今からでも遅くはありません。もう一度勉強して下さい」
半世紀近く前にも、エチケット委員たちの眉間に縦皺を寄せさせるゴルファーは多かったわけです。K委員はとくに目にあまるものとして次の八つをあげています。今日どれだけ良くなったかチェックしてみてください。
一、パットする人の直前直後に立つ人が相当数見受けられます。無神経のレッテルを貼りたいものです。
二、とったターフは必ず埋めて下さい。あちらこちらに乾いた残がいをさらしている芝生はいただけません。あなたのお庭ならその儘にはしていかないでしょう。
三、 バンカーの靴あとは必ずならして下さい。このことを知らないゴルファーはいない筈なのに、靴あとが沢山あるのは不思議です。
四、ボールは必ず二、三個身につけてプレーして下さい。
五、バッグは成るべく軽くしてください。(キャディのため。制限重量は七・五キロでした)
六、スコアカードはグリーンの外に出て記入して下さい。グリーンは会議場ではありません。
七、コースは急ぎ足で歩いて下さい。ミスショットの連続で同情は致します。しかしダラダラ歩きはいけません。
八、ヴィジターには必ず会員が同行して下さい。ヴィジターをクラブに押しつけて、御本人(会員)は別行動という方が見受けられます。皮肉にもそういうヴィジターの中にエチケット違反者が居るのですが、御本人がいないのでは注意が出来ず困ります。
どうでしょう。いまも変らずよく見られる風景ばかりではありませんか。K委員は文末で自分の責務を宣言しています、「これからどんどん注意をさせて戴きます」と。そう、先輩、上級者から後輩、初心者へのマナーの伝授、継承があまりにもなされないままにきた結果なのです。
八十年前(編注:刊行当時)、北海道三番目のゴルフ場を立ち上げ、この地に真っ当な流儀のゴルフを根づかせようと夢見た創設者たちの志がありました。四十年前はちょうど真ん中の中継点。 K委員の宣言は、今日の私たちへの呼び掛けでもある、と受け止めましょう。
「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より