週刊ゴルフダイジェストで連載中の人気ゴルフマンガ「オーイ!とんぼ」。主人公の少女「とんぼ」は、プロ顔負けのテクニックでクラブとボールを自在に操り、さまざまなスーパーショットで読者を魅了する。
しかも「とんぼ」のショットのすごいところは、実際のスウィング理論に基づいた技術的背景がしっかりしていて、どのスーパーショットも荒唐無稽というわけではない点だ。
とはいえ、どのショットもすごい高等技術のように見え、本当に実現可能なのかわからない。そこで、USLPGAティーチング会員の理論派美女プロ小澤美奈瀬が、「とんぼ」のスーパーショットをどうすれば実現可能なのか、実際にボールを打ちながら検証してみた。
まず最初に再現するのは、単行本1巻でとんぼが放つ「ツバメボール」。左からの強風のなかを、往年の名アイアン“ジャンボMTNⅢ”の3番アイアンを一閃、風の下をくぐらせてフェアウェイキープさせたのがこのショット。
マンガの描写を見ると、アドレスは左の海を向くような極端なオープンスタンス。切り返しの瞬間に左手首を手のひら側に折るとともに腕のポジションを下げてシャフトをしならせ、リーディングエッジがボールの赤道に当たるようなインパクトから低く長いフォローで振り抜いていく。
さらに特徴的なのは「球の10センチも先からターフを削りやがった!」とそれを見ていた元プロのキャラクター・五十嵐を驚かせた長いインパクトゾーン。
果たしてこの技は本当に打てるのか。小澤が手にするのは、とんぼが使ったものと同じ「ジャンボMTNⅢ」の3番アイアン。シャフトは、とんぼの「プレシジョン7.0」よりはちょっとやわらかい「プレシジョン6.0」だが、それでも「ぺらっぺらっの3鉄(マッスルバック)」には違いない。
「すごーい! ヘッドが小さいしメチャメチャ重い! これでちゃんと打てるかな?」と不安そうな小澤。
早速どう打つのかを考えてみるが、ポイントとなるのは「ボールの10センチも先からターフが取れる」という点にありそうだ。
「そんなに先からターフが取れるっていうことは、すごくゆるやかな入射角でインパクトゾーンがめちゃくちゃ長いということ。でも、低い球とはいえ、マッスルバックでちゃんと球を浮かせるには、スウィング軌道の最下点がボールの先に来るダウンブローでとらえることも絶対条件。この矛盾しているような2つの条件を満たすのが、ボールの10センチ先からターフが取れる軌道なんだと思います」(小澤)
そこでカギになるのが、とんぼのアドレスだ。
「とんぼちゃんは、極端に左を向いて構えていました。入射角をゆるやかにするにはインサイド・アウト軌道で振るのが合理的ですから、インサイド・アウトに振ってもさらに風上(左)に打ち出せるように、極端に左を向いたんだと思います。今日は風がないのでそこまで左を向く必要はありませんが、ターゲットよりも左を向いて構えて、ターゲット方向に打ち出すイメージがよさそうですね!」(小澤)
打つ前にもう1点確認しておきたいのが、切り返しでの手首と腕の動きだ。
「切り返しで左手首を手のひら側に折る描写があったんですが、これはフェースがかぶってロフトが立つ動きです。『つばめボール』はすごく低い球ですから、この動きでロフトを立てて打ち出し角を抑えているんですね。そして腕が下方向にスライドするように“落ちる”動きによって軌道をループさせ、インサイドからクラブを下ろしているんだと思います」(小澤)
果たして、これほど複雑な動作を「ぺらっぺらっの3鉄」でできるのか?!
左を向いてインサイドアウトに振り抜いた1発目のショットは、低く真っすぐの球が出て、なかなかGOOD!
しかし、残念ながらターフが取れないハーフトップ気味の当たりだった。かなりシャローな入射角でボールをとらえてはいたが、もう少しダウンブローを強調しなければターフは取れなさそうだ。とはいえ、上から打ち込んだのでは入射角が鋭角になってしまう。
そこで2球目は、1球目よりも左足体重気味に構えてスウィング軌道の最下点がより左に来るように調整。ところが今度は、左足体重にしたぶんヘッドが上から下りてきてしまい、少しカット気味に入ってしまった。ツバメボール、一筋縄ではいかない!
そして3球目。今度は左足体重のアドレスはそのままに、さらに極端なインサイドアウト軌道を意識し、シャローな入射角を強調。すると低く打ち出しつつつかまった、伸びのいいローボールが出た!
目に見えてターフは取れないものの、今回はボールの先の地面をコスッた感覚はあった。ナイスショットだが実験としては後一歩だ。もう少しターフが取れないかともう1球同じイメージでスウィングするが、ほぼ同じ球。
「ダウンブローかつシャローって、ちょっと二律背反するような動きをしなきゃならないのですごく難しいです! 多分、とんぼちゃんくらい無邪気なハートと、手首や体の柔軟性があれば、もう少しロフトを立てて、さらにインサイドからボールをとらえることができるのかもしれませんが、私ではこれが限界です!」(小澤)
と、今回の挑戦はここまで。ツバメボールの完全再現はならなかったが、カチカチのスチールシャフト装着のマッスルバックの3番アイアンでナイスショットを連発するという離れ業を見せてくれた小澤美奈瀬もすごかった!