「『勝ちたい』じゃなくて『勝つんだ』と決めてピンを攻めてみないか」
黄金世代の中心選手の一人として昨年大活躍し、賞金ランクは8位と同世代の中でもっとも高い位置でフィニッシュ。未勝利だったものの、「やがて勝つ」ことが確実視されていた小祝さくら。
しかし、その日はなかなかやって来ず、今シーズンに入ってからは渋野日向子、原英莉花といった同世代のライバルたちが先に初優勝を挙げて行った。
実力は誰もが認めるもの。周囲からも「あとは運」そんな言葉も聞こえてくる。その中で、小祝が口にした「勝てたらいいな」「いつか勝てるだろう」という言葉に秘められた“甘え”を2016年末からコーチを務める辻村は聞き逃さなかった。
「さくらの言葉の中に、甘えがあると感じたんです。だから、大会前に一緒に食事をした際に、『勝てたらいいな』じゃなくて、『勝つんだ』っていう風に考え方を変えないか? と言いました。勝つと決めて、ピンを狙っていけって」
その言葉の威力は絶大だった。「闘志を前面に出すタイプではない」(辻村)という小祝が、ピンを果敢に狙うゴルフを展開。同組で回った実力者、イ・ミニョンとの殴り合いのような激しいバトルの末、1打差で勝利を掴み取って見せた。その最終日の闘いぶりを、辻村はこう賞賛する。
「最終日はずっとプレーを見ていましたが、ミスを待つゴルフではなく、迷いなくピンにガンガン攻めていました。これまで初日や2日目にビッグスコアを出すことはありましが、僕が今ままで見た中で、最終日のベストプレー。ミニョンさんもショットが良くてしんどい展開でしたが、ベストショットを打っていくんだという気持ちが見えましたね」(辻村)
試合後、初優勝を焼肉で祝ったという師弟。「1勝して次の試合から調子が下がるんじゃダメ、次の試合からが大事だよ」そんな話をしながらの食事を終えた後、夜の10時前後という時間から、小祝はランニングへと出かけていったという。優勝した夜でさえ自分を甘やかさずにランニングができる。並の精神力ではない。
「今日(月曜日)は僕もさくらもオフなんですが、先ほどさくらから『今から1時間だけ練習見てもらえませんか』という連絡が入りました。教える側としてはこんなに嬉しいことはないですよね。この(取材の)電話が終わり次第、行ってきます」(辻村)
努力を惜しまない教え子と、その努力に全力で応えるコーチ。黄金世代の中心選手がついにつかんだ初優勝は、このコンビにとってはひとつの通過点に過ぎないのかもしれない。
撮影/岡沢裕行