ジャスティン・トーマスがプレーオフシリーズ第2戦「BMW選手権」で今季初優勝。2018年WGCブリヂストン招待以来、およそ1年ぶりの優勝となった。全米プロでトーマスと熾烈な優勝争いをするなど同時期に活躍し、しばらく勝てていない同世代の松山英樹は続けるか。海外ツアー取材歴20年のゴルフエディター・大泉英子が分析。

「ヒデキとの戦い」を思い出しガマンのゴルフで勝利をつかんだ

「よかった。今日は実はあまり調子がよくなかったんだけど、パトリック(・キャントレー)は信じられないくらいいいプレーをしていたし、それで僕も火がついたんだ。だから後半はとにかく集中して、我慢強くプレーしていた。でも最初はとても緊張していたよ。コースで優勝争いをするのが楽しいなんて感覚はしばらくなかったし、いかに試合で勝つことが難しいことかを思い出した。でもこうして勝ててよかったよ」

「BMW選手権」の2日目、松山英樹が9バーディ、ノーボギーの63で回り、コースレコードを2打更新したのもつかの間、翌日にはジャスティン・トーマスが松山の記録をさらに2打上回る61でホールアウト。2イーグル、8バーディ、1ボギーという驚異的なスコアで回り、2位のトニー・フィナウ、パトリック・キャントレーに6打差をつけて最終日に臨んだ。

だが、出だしをボギーとしたトーマスは、前半2つのバーディを奪ったものの、松山英樹とパトリック・キャントレーの凄まじい追い上げにガマンのゴルフを強いられていたらしい。

「パトリックは前半もたくさんバーディを獲っていたので、そこでガマンするのは精神的に厳しかった。でも、以前ヒデキ(松山)とマウイ(セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ)で同じような状況があったな、と思ったんだ。5ホール残して5打差つけていたが、突然3ホール残して(ヒデキと)首位タイになり、優勝した。だから今日も、このときとまったく同じような感じだった」

10番でボギーを叩き、2位以下との差はさらに詰まったが、そこで逆に緊張感から解放され、11番でバーディ。その後3バーディを決め、2位のパトリック・キャントレーとは3打差をつけて優勝したのだった。

画像: BMW選手権で約1年ぶりの優勝を飾ったジャスティン・トーマス(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉﨑正)

BMW選手権で約1年ぶりの優勝を飾ったジャスティン・トーマス(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉﨑正)

2017年、彼はハワイの試合で2連勝し、デルテクノロジー選手権など5勝を飾っている。松山英樹を倒して優勝した全米プロもこの年の優勝だ。このころの彼は負け知らずで、世界最強だったと言っても過言ではない。2018年もWGCブリヂストン招待など3勝を飾っているが、その後はしばらく優勝から遠ざかっていた。だが彼は「勝ち方は知っている。ただ、そのステージに立っていなかっただけ」と言い、そのときが来るのをじっとガマンして待っていたのである。

「過去、成功していたのは本当にラッキーだった。かといって、これ以上成長できないわけではない。優勝争いの場に立てば立つほど、その経験から何かをもっと学ぶことはできるんだ。今日も優勝はしたが、何かを学ぶことができると思う。とにかく勝つのは大変だ。それは間違いない」

成功体験を持つ選手は”ここ一番”での経験値を持つ

世界のトッププロでも浮き沈みはある。ジョーダン・スピース、松山英樹、ジェイソン・デイら世界の強豪若手たちでも、最近優勝から遠ざかっている選手は何人もいるが、彼らの武器はトーマスが語るように「成功体験」。自分は過去、調子の悪い時でもなんとか優勝することができたとか、強豪がひしめき合う団子レースの中で、勝ち抜くことができた、というような成功体験を持っている選手なら、「一度はできたこと」と認識し、自信に変えることができる。

もちろんしばらく間があいてしまえば緊張したり、不安に思うこともあるだろうが、優勝争いとはどんなものか、未体験の選手に比べれば圧倒的に優位に立てるだろう。

画像: ジャスティン・トーマスと同じく優勝から遠ざかっている松山英樹だが、彼には“経験値”という武器がある(写真は2019年全英オープン 撮影/姉﨑正)

ジャスティン・トーマスと同じく優勝から遠ざかっている松山英樹だが、彼には“経験値”という武器がある(写真は2019年全英オープン 撮影/姉﨑正)

トーマスは今大会の優勝でフェデックスカップで1位になり、最終戦のツアー選手権は新フォーマットにより10アンダーからのスタートとなる。2位はパトリック・キャントレーで8アンダー、松山は15位で3アンダーからのスタートだ。

「今までゴルフというスポーツでこのようなフォーマットは経験したことのないことだから、なんといっていいかわからない。なんか変な感じなのか、違和感があるのかとか。ただ言えることは、1週間の始まりにかなり優位に立っているということ。喜ばしいことだよ」

実際、このフォーマットがうまくいくのかいかないのかは試合が始まってみないとわからないが、今回のトーマスや松山のように61や63などのビッグスコアを出せば、誰でも10アンダーのリーダーをキャッチできる可能性はある。

最下位(30位)の選手もイーブンパーから始まるからだ。そうなるとここまで好成績を積み上げてきた選手にとっては、あまりアドバンテージを感じられないかもしれない。それはそれで気の毒だが、実際はどうなるかに興味がわく。松山英樹の一発逆転フェデックスカップチャンピオンの可能性も大いにあるので、今週末のツアー選手権の成り行きに期待したいと思う。

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