最終日は首位タイ同士の一騎打ち
LPGAツアー公式戦の第1戦「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」で渋野日向子が通算12アンダーで優勝した。プロ入り1年目の渋野にとって、これがツアー初V。20歳178日での優勝は大会最年少記録でもあった。
劇的な変化を遂げることとなった今シーズンを、渋野はどのような気持ちで臨んだのだろう。
「シーズンが始まる前は、今年は出る試合で予選を通過することが目標だったんです。だから、(ウェイティングから今季初出場となった)PRGRレディスでトップ10に入ったことも、フジサンケイで2位タイに入ったことも想定外でした。サロンパスの時は、コーチとは予選通過できるかできないかの瀬戸際あたりで戦っていこうって話をしていたんです」という。
そういう気持ちで臨んだワールドレディスだったが、渋野は2日目を2位タイで予選を通過。3日目に6アンダーを出して首位タイになると、最終日は最終組で一緒に回るペ・ソンウとの一騎打ちの勝負を展開した。
優勝争いの重圧か、スタートホールではキャディの柳田真歩さんに、「手が震える」と打ち明けたという。1番はティショットを左に曲げるなどトラブルが続き、パー5でボギーという不本意な滑り出し。「パー5でボギーはないんじゃないかな。でも、まだあと17ホール残っているから大丈夫、と言い聞かせました」という。
その言葉通り、すぐに2番ホールで3メートルを沈めてバーディとし、振り出しに戻す。渋野はバウンスバック率の高さが良く知られているが、この日もこの2番だけでなく、4番でもボギーを叩くが、続く5番で10メートルの長いパットを沈めバーディを獲り、立ち直りの早さを見せている。
ペ・ソンウとの優勝争いはシーソーゲームの様相を呈していたが、14番でソンウがボギーで両者は並び、16番で勝負が動いた。
2打目地点は前下がりの難しいライ。さらには背の高い木がグリーンを遮り、グリーン手前にはバンカーがあるという今大会最難関。
ペ・ソンウの2打目は残り190ヤード。木を避けるべく右からのドローで狙うが、ボールは右にすっぽ抜けて右の林に入るトラブル。
一方の渋野は5番アイアンからUTにクラブを替えていた。
「このホールはパーで我慢していけばいいかなという気持ちがあったんです。セカンドは左の花道が真っすぐ狙える状況だったので安全にそっちを狙いました」
渋野は2打目でグリーンをとらえたもののバーディを逃したが、ソンウがダブルボギーを叩き、2打差がつき「ここで少し気持ちの入れ替えができたかなって感じです」という。
17番では5メートルのバーディパットを外し、返しの1メートル強を打つ時は手が震えたが、「ココで外したら、まだ分からない。自分は苦しい場面でのパットを決めていける準備はしてきた」との気持ちで打ち、パーをセーブした。
最終の18番でペ・ソンウはバーディを獲った。渋野は1.8メートルのバーディパットを外し、「ココで外すか。私らしいなと思った」が、パーパットを入れ、「良かった、終わった」と思ったら、急に涙が出てきた。
後日、ワールドレディスの優勝を含め、好調の理由を訊くと、「数値的に、サロンパス辺りまで1位か2位くらいにいたので、やっぱりパッティングなのかなと思います。でも、とくに何かを変えたわけではなく、去年から練習法を変えたくらいなんですけれど」という。
それは、2年前からタッグを組む青木翔コーチが考案したもので、1メートルから5メートルまで50センチ刻みで距離を長くしていき、合計9つのパッティングラインを、カップを中心にしたサークルの上に配し、9回中2回まではミスが許されるという練習法である。
サロンパスの17番ホールで、「苦しい場面でパットを決める準備はしてきた」と自分に言い聞かせた、その準備こそがこの練習法だったのだ。もしあの返しのパットを外していたら、18番でバーディを獲ったペ・ソンウと並んでいたのだから、確かに、この練習法が渋野の今季の快進撃を支えていると言っていいだろう。そしてそれは、全英女子オープンの、18番での、あの「壁ドン」のバーディパットに繋がっていくわけである。
※「月刊ゴルフダイジェスト10月号臨時増刊 スマイル!スマイル!渋野日向子」より
写真は2019年のワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ 撮影/岡沢裕行
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海外メジャー優勝という偉業を成し遂げた渋野日向子。そんな渋野を指導する青木翔コーチのレッスン法を紹介する「渋野日向子を変身させた『青木マジック』の中身」や、全英女子オープンでのサンデーバックナインの模様を完全収録した「渋野日向子の“31打”」など、シブコづくしの増刊号「月刊ゴルフダイジェスト10月号臨時増刊 スマイル!スマイル!渋野日向子」が大好評発売中。シブコフリーク必見の一冊、ぜひ手にとっていただきたい。