AIG全英女子オープンで、樋口久子以来42年ぶりの海外メジャー制覇という偉業を成し遂げた渋野日向子。そんな彼女の全英優勝までの軌跡を振り返ってみよう。今回は、渋野が国内ツアー2勝目を果たした「資生堂アネッサレディスオープン」、その最終日の模様をプレーバック!

最難関「15番」でバーディ。イ・ミニョンの背中が見えた

今思えば、2勝目は「全英女子オープン」の前哨戦のような逆転劇だった。最終日は中盤までボギーが先行する苦しい展開。しかし、後半になると長いバーディパットを決めて大観衆が後押しする。そして緊張する場面でも笑顔を見せて、実力者イ・ミニョンに競り勝った。その裏には多くの解説者やプロが評価する“普通ではないメンタル”が隠されていた。

画像: 12番ホール終了時点で首位を走るイ・ミニョンと4打差あった渋野。「もう行くしかない」と思ったという

12番ホール終了時点で首位を走るイ・ミニョンと4打差あった渋野。「もう行くしかない」と思ったという

3日目に「66」を出して首位と2打差の2位で最終日を迎えた渋野だったが、最終日は12番で3つ目のボギーを叩き、首位とは4打差まで広がった。しかし、渋野のメンタルは違っていた。

「4打差がついたときに、もう行くしかないと思いました。まだパー5も2つ残っていたので、バーディとかイーグルを狙うしかないと思っていましたね」

元々、渋野はパー5を重視する選手。パッティングやアイアンでのパーオン率を重視してスコアを作る選手も多いが、渋野は違う。

「基本的に私はドライバーでスコアを作っているので、パー5は重要です。パー4には難しいホールもあるので、そこはパーを意識しますかね……。ただチャンスがあればガンガン行きます。それもティショット次第です」

画像: 最終日はスタート直後から雨が降り、風速8.8m/sという厳しい天候。渋野も前半は風の影響でショットを乱す場面もあった

最終日はスタート直後から雨が降り、風速8.8m/sという厳しい天候。渋野も前半は風の影響でショットを乱す場面もあった

ボギー直後の13番パー5。ピンまで残り227ヤードから、果敢に5番ウッドでツーオンを狙った。惜しくもピン奥に外したものの、バウンスバックとなるバーディを奪った。

しかし、イ・ミニョンもバーディで4打差は変わらない。次の14番はともにパーとして、残り4ホールで4打差というさらに困難な状況になった。

そして迎えた15番はホール別難易度1位のパー4。最終日は、最終組を迎えるまでバーディがひとりもいなかった。渋野はパーオンには成功したものの、カップまで約15メートルのファーストパットが残っていた。

パーセーブが難しいホールでも、渋野に「寄せる」という気配はなかった。残り15メートル、上りのスネークラインでも強めに打ってバーディを奪うと、両手を挙げてガッツポーズを見せた。首位を独走していたイ・ミニョンは3パットのダブルボギー。一気に1打差になった。渋野はこのバーディについて、

「歩測で20歩もあったので入るとは思っていませんでした。でも、この日はロングパットでショートしていたので、絶対にオーバーさせようと打ちました」

画像: コース最難関の15番では約15メートルの長いバーディパットを決めた

コース最難関の15番では約15メートルの長いバーディパットを決めた

ここからさらにギャラリーの応援はヒートアップし、渋野はトレードマークの笑顔で手を振りながら終盤戦に突入する。しかし、5月の初優勝から2ヵ月の間には笑顔を忘れていた時期もあった。

忘れていた「笑顔」を取り戻した

6月の渋野はスマイルシンデレラとはほど遠く、プレー中にイライラしたり、怒りを爆発させる試合もあった。成績も「ヨネックスレディス」で46位タイ、「宮里藍サントリーレディス」で45位と結果が出ない試合が続いた。そんなとき、師事する青木コーチからはプレー中の態度を叱られたと語る。

「プレースタイルが良くないと怒られました。笑顔を忘れていたんです。初優勝してから、ずっと調子が良くなくて、スコアが悪くても笑っていることが辛くなってきた。でもコーチから注意を受けて、笑顔を忘れてはいけないと反省しました。だから、今日もボギーでズーンと落ち込んだけど、気持ちを切り替えて、笑顔を取り戻すことができました」

画像: 難関17番ホールをバーディとしトップタイに。移動中にはギャラリーに笑顔を見せた

難関17番ホールをバーディとしトップタイに。移動中にはギャラリーに笑顔を見せた

残り3ホールを迎えると渋野が笑顔を見せるシーンが増えていった。そして1打差で迎えた17番は、15番ホールに次ぐ難易度2位。このホールでも渋野は2打目で積極的にピンを攻めると、3メートルのバーディパットを決めて、ついにトップに並んだ。18番はともにパーセーブでプレーオフに突入する。この終盤を振り返った渋野は、

「17番ではこのパットを入れれば追いつくと思っていたので、決めたいところで決められたので、すごく嬉しかったです。18番でも緊張はありませんでしたし、すごく沢山の方が応援してくれたのでにやけが止まらなかったです」

画像: 初日は1アンダーの21位タイだったが、2日目は4アンダー、3日目に6アンダーと両日ともノーボギーでスコアを伸ばした。3日目と4日目は後半で計7バーディを奪い後半に強い渋野の本領を発揮。この試合を終えて11ラウンド連続オーバーパーなし

初日は1アンダーの21位タイだったが、2日目は4アンダー、3日目に6アンダーと両日ともノーボギーでスコアを伸ばした。3日目と4日目は後半で計7バーディを奪い後半に強い渋野の本領を発揮。この試合を終えて11ラウンド連続オーバーパーなし

プレーオフの移動中にも笑顔を見せながら、ギャラリーに笑顔で手を振っている渋野からは20歳の新人とは思えない余裕が感じられた。もしかすると、イ・ミニョンもそう感じていたのかもしれない。

1打目でフェアウェイをキープしたイ・ミニョンに対して、渋野は右のラフでグリーンを狙うには林の枝が気になるアングルだった。しかし、渋野は2打目地点でも、カメラに向かって笑顔で腕を左右に動かして「もっと風で枝が右に行って!」というようなおどけたポーズまで見せていた。

結果はイ・ミニョンが2打目をバンカーに入れ、3打目もグリーンを外してダブルボギー。渋野は2打目をグリーン奥に外したが、きっちりとパーを奪って、ツアー2勝目を飾った。優勝インタビューで渋野は、

「2勝目がこんなに早く来るとは思わなかったです。今年中に勝ちたいと思っていたので、めちゃ早い感じです」

画像: プレーオフではイ・ミニョンが3打目でグリーンを外した後、渋野はあわやチップインバーディのアプローチでギャラリーを沸かせた

プレーオフではイ・ミニョンが3打目でグリーンを外した後、渋野はあわやチップインバーディのアプローチでギャラリーを沸かせた

最初からスマイルシンデレラだったわけではない。その笑顔は、初優勝後の苦しい時期を乗り越えた心の強さでもあった。約1ヵ月後に、海外メジャー優勝を達成する勝ちパターンは、この試合で生まれていたのかもしれない。

※「月刊ゴルフダイジェスト10月号臨時増刊 スマイル!スマイル!渋野日向子」より

写真は2019年の資生堂アネッサレディスオープン 撮影/岡沢裕行

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海外メジャー優勝という偉業を成し遂げた渋野日向子。そんな渋野を指導する青木翔コーチのレッスン法を紹介する「渋野日向子を変身させた『青木マジック』の中身」や、全英女子オープンでのサンデーバックナインの模様を完全収録した「渋野日向子の“31打”」など、シブコづくしの増刊号「月刊ゴルフダイジェスト10月号臨時増刊 スマイル!スマイル!渋野日向子」が大好評発売中。シブコフリーク必見の一冊、ぜひ手にとっていただきたい。

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