飛ばせなかった“ヒールヒット”も救う、タイトリストの新構造
アイアンはドライバーに比べて進化が乏しいカテゴリーといわれている。それは視覚的な形状変化が容認されにくく、大きくしたり、形を変えたりできないからである。
考えてみれば、これまでに生み出されたアイアンの構造的な革新は、ゴルファーから“見えない”ところで考えられてきた。構えても見えないバックフェースなら、凹ませて“キャビティ効果”を生み出しても問題なかった。
フェースに本体とは別の割れにくい金属(チタンや超硬ステンなど)を採用して薄肉にしても、タングステンなどの高比重金属をソールやトウ-ヒールに埋め込んだりしても、構えた時に気にならなければゴルファーは「進化」として受け入れてきたのである。
構えたら“普通”で、打てば確実に大きな進化(飛距離アップ)を感じる。なんとも都合がよく、わがままな“消費者ニーズ”であるが、それを叶えるためにアイアンのヘッド内部は、さらに複雑な構造になっているようだ。
ご覧の分解ヘッドは、8月30日に発売されたばかりのタイトリスト「T200」アイアンの内部構造である(5番アイアン)。フェースはSUP-10と呼ばれる超硬金属を採用し、薄肉Lカップ形状に成形されている。ボディは中空で、フェース下の両サイドにはまっているのが高比重金属のタングステンだ。打球面の裏に配置された赤い樹脂が“最新”のテクノロジー。この樹脂をバックフェース側からスクリュー式に挿入し、薄いフェースに密着させているのだ。
「このマックスインパクトテクノロジーを採用することで、フェースセンター以外でも高いボールスピード、安定的なスピン性能を得ることができます。とくにフェース下部やヒールなど、これまでスピードロスしがちだったヒットエリアでも飛距離が落ちず、左右ブレも少なく飛ばせるようになったのです」(ジョッシュ・タルギ氏/タイトリストゴルフクラブマーケティングバイスプレジデント)
フェースを薄肉化すれば反発性能は高まるが、そのままでは強度が保てなくなってしまう。「T200」アイアンでは、フェース全体を1.9ミリにまで薄肉化しつつ、最も大きなたわみが発生するフェースセンターをサポートするために、裏側からゴルフボール開発で培った特殊な樹脂が当たるようにセット。こうすることでセンターの強度を保ちつつ、たわませにくかったフェース下部やヒールにまで高い反発域を広げることができたというのである。
違和感なく構えられるのに、打つとすごい! それこそが最新アイアンの最新たる理由。この秋はタイトリストに限らず、各社からアイアンのニューモデルが続々登場している。「アイアンなんてどれも同じ」と達観するのは、とりあえず試打してからということで。
ドライバーでもフェースの裏を健気に支える新構造が登場!
タイトリストアイアンの新構造は薄肉フェースを樹脂面で支える方式だったが、ドライバーでも“裏からフェースを支える”方式を取り入れたブランドがある。ブリヂストンのNEW JGRドライバーだ。
こちらもヘッドの中身をパカッと開けてみると、ソール側からネジのような部品が挿入され、フェース下部の一点に密着しているのがわかる。黄色く見えるのは衝撃を抑えるウレタン樹脂カバーだ。ブリヂストンはこの構造を6年間研究してきたというが、その目的はなんなのだろうか?
「やりたいことはフェース全面に最大反発領域を広げることです。ご存知のようにゴルフクラブの反発性能はルールで厳格に決められており、現代の高度化したヘッド設計・製造技術でドライバーヘッドを作れば、そのルール上限を簡単に超えるヘッドになってしまうのです。そこで、いかにルール上限ギリギリに最大反発を抑えるか、というのが一つの課題となるわけです。問題は最も反発の高いフェースセンター付近の反発をルールギリギリにしようとすると、その周辺の反発性能まで連動して低下してしまうことなのです。周りの反発を落とさず、フェースセンターの反発を調整する。その解決策がNEW JGRドライバーに採用した、SP-COR(サスペンション・コア)なのです」(竹地隆晴氏/ブリヂストンスポーツクラブ企画部クラブ商品企画ユニット課長)
SP-COR(サスペンション・コア)はご覧のようにフェースセンターよりも下側に当たっているが、ここがルール上限ギリギリに抑えたいセンター付近の反発調整に“ピンポイントで効く”、導き出された一点だ。これによって他のエリアの反発は影響を受けることがないため、このドライバーの反発力は従来よりもフェース全体に広くなっているというわけだ。
アイアンもドライバーも、普通の顔をして大きな変貌を遂げているのが、現代の最新ゴルフクラブ事情だ。各ブランドの進化の方向性をみていると、ナイスショットでの飛距離アップを競う時代はとうに終わっているのだなと改めて感じる。革新はミスヒットした時のためにある。そこそこ満足いく結果が“安定的に”得られるモデルをぜひ探してもらいたい。