ハタチで臨んだ全英オープンで初日首位に。順風満帆に思えたが……
フェデックスカップ・ファイナルの最終戦「ツアー選手権」はロリー・マキロイの優勝で華々しく幕を閉じたが、PGAツアーの下部ツアーであるコンフェリーツアー・ファイナルは9月2日に終了。
最終戦「コンフェリー・ツアー選手権」で米国初優勝を果たしたのは、イギリスのトム・ルイス(28歳)。今から8年前、ロイヤル・セントジョージズで開催された全英オープンでダレン・クラークが優勝した際に、ローアマチュアに輝いたイケメンのイングランド人だ。
「いつも僕の夢はPGAツアーでプレーすることだった。もちろんヨーロピアンツアーでもいいことはあったけど、PGAツアーでもっとすばらしいことを成し遂げたい。これから先が楽しみだよ」
デビューしてからこれまで、彼のゴルフ人生は本人や周囲が思っていたよりも甘くはなかった。2011年、アマチュアとして全英オープンに出場した時、彼は20歳。初日は65の好スコアをマークして、世界の強豪を差し置きアマチュアにして首位に立った。全英オープン史上、1968年にマイケル・ボナラックがアマチュアで首位に立って以来、49年ぶりの快挙を達成。
予選ラウンドはトム・ワトソンと同組だったが、彼の名前のトムは、トム・ワトソンにちなんでつけられたもの。色白で青い目の華奢な美少年といった風貌で、ピンのクラブにBOSSのゴルフウエアが印象的だった。ルーク・ドナルド風の才能溢れる美形ゴルファー登場に、思わず心が躍ったものである。
彼は2011年の秋に鳴り物入りでプロ転向し、同年9月にデビュー戦のオーストリアンゴルフオープンで10位タイに入賞。10月には自身3試合目となるポルトガルマスターズでは早くも優勝を果たし、ルーキー・オブ・ザ・イヤーにも輝いた。将来を嘱望されたが、その後なぜか鳴かず飛ばず。ずっと勝利に見放され続け、ヨーロピアンツアーのシード権も2016年に失った。
2018年の夏場から徐々に調子を取り戻し、9月にはヨーロピアン・チャレンジツアー「ブリヂストンチャレンジ」で優勝。2週間後の「ポルトガルマスターズ」では7年ぶりにレギュラーツアーで2勝目を果たしたが、デビュー当時、あれだけ強かった彼がなぜこんなにも苦労したのか。
メンタル的な問題なのか、彼の持病である失読症が原因なのか、理由は不明だが、この優勝でヨーロピアンツアー「レース・トゥ・ドバイ」の最終戦であるドバイの試合にも出場することができ、7位タイに入賞。無敵のアマチュア時代の自信を少しづつ取り戻しているようだった。
ポルトガルで久しぶりに優勝した際、彼は次のように語っている。
「今回の優勝は2011年に優勝した時よりも大きな意味を持つ。なぜならここに戻ってくるまでに、ものすごく大変な思いをしたからだ。できれば今回はこのままいい調子を続けたい。ツアーで戦う生活は見た目ほど簡単じゃない。いつもプレッシャーがつきまとい、苦しんでいる。過去の名声は失ったが、これからはもっと今まで以上に活躍していきたい」
欧州ツアーのビッグイベントをスキップしPGAツアーヘの“一発勝負”に臨んだ
自身の期待通りに、彼は去年の夏を境に復活を遂げた。今年に入ってアブダビHSBC選手権で9位タイに入ると、今年初開催のサウジインターナショナルで3位に。世界のトップランカーが出場するWGCイベントにも出場できる位置まで世界ランクを上げ、全英オープンでは11位タイに入った。
世界ランクは85位にまで浮上し、来年のマスターズ出場も視野に入ってきたところで、なんとか50位以内に入りたいと考えたルイスの気持ちは、アメリカへ向かった。コンフェリー・ツアーファイナルに出場する資格を得た彼は、オメガ・ヨーロピアンマスターズをスキップし、突如コンフェリー・ツアー選手権に出場したのである。
「ヨーロッパ(の試合)は僕の主戦場だし、あまりたくさんの試合をスキップしたくはない。レース・トゥ・ドバイで30位以内に入ることは大事なことだから。でも一方で世界のトップ50に入ることも大事だ。今回、コンフェリー・ツアー選手権に出場した決断が正しければいいが……」
そしてその決断が正しかったことが証明された。コンフェリー・ツアーからは合計50名の選手たち(コンフェリーツアー・レギュラーシーズンの獲得ポイント上位25名と、コンフェリーツアー・ファイナルの上位25名)が来季のPGAツアーのシード権を獲得できるが、トム・ルイスはたった1試合に出場し、優勝することで長年の夢であったPGAツアーのシード権をゲットしたのだ。過去の苦しい時期の記憶も吹き飛ぶほどの逆転劇。今まで苦しんだ分、今後の彼のゴルフ人生は明るいのかもしれない。世界ランクも65位に浮上。目指すトップ50まであともう少しだ。
「いつも笑顔を心がけているけど、太陽が出れば、もっと笑顔になれるんだ。太陽が好きだから、アメリカにいるのが楽しい。ヨーロッパでは太陽の光の下でプレーすることもさほどないからね。心では泣いてるかもしれないけど、楽しんでるよ!」
暗く雲が垂れ込めがちなイギリスで生まれた彼は、太陽の照りつけるアメリカが好きだという。陽の光を浴びながら、デビュー当時の眩しいまでの活躍を、来季のPGAツアーで再び見せることができるだろうか。
年内は再びヨーロッパに戻り、レース・トゥ・ドバイまではヨーロピアンツアーに集中して、優勝したいという。それができれば自ずとマスターズ行きの切符も手に入れることができるだろう。
いよいよ来週から2019-2020年のPGAツアーが始まる。トム・ルイスの他、今年のマスターズ・全米オープンの2大会でローアマを獲得し、今年の6月にプロ入りしたビクトル・ホブラン(ノルウェー)もコンフェリーツアーで上位の成績を残したことによりPGAツアーに出場する。
群雄割拠のPGAツアー、世界中から猛者が集まり、ますます目が離せない。