トップ、サラスを追う渋野。最終日バック9、アクセルを踏み続けた
「ここは絶対バーディを獲らなきゃならない」
渋野日向子は10番ティで自分にそういいきかせた。最終日を単独首位でスタートしながら3番で4パットのダブルボギーを叩き首位から陥落。
「怒るというより笑けちゃって。そのあとだんだん悲しくなりました」
全英女子オープンというメジャーの最終日。序盤でダボが出れば「今日はわたしの日じゃない」と諦めにも似た思いがよぎるはず。だが渋野は違った。
すぐさまバーディを2つ奪い返しバウンスバック。が、それも束の間、8番でボギー。トップに2ストロークのビハインドを背負ってバック9に入った彼女は「気持ちを切り替える必要があった」という。
気合を込めたティショットはフェアウェイを真っ二つに切り裂いた。
ド真ん中。
絶好のポジションからの第2打はしかしグリーン奥のカラーに少しこぼれた。チャンスとはいい難い状況。だが渋野は諦めていなかった。
すると右から左へゆるやかなカーブを描いたファーストパットは、まるでボールが意思を持ったかのようにカップに吸い込まれた。
会心のバーディ。
「よしっ!」
心の中でガッツポーズを決める。
「入らなくていいや、と思ったら入っちゃった」とのちにはこう振り返っている。
11番548ヤード、パー5のティショットは左のラフへ、2打目でフェアウェイに戻し3打目はピンまで67ヤード。スコアを伸ばしたいパー5だけにぴたりとピンに絡ませたいところだがカップ手前からスピンバック。カラーからのアプローチを惜しくも外し渋野は表情を曇らせた。
続く12番は1オン可能なパー4。右サイドに池が迫り一歩間違うと奈落の底に突き落とされるリスキーなホール。イーグルもあればダボもある。普段303ヤードのところ最終日の設定は253ヤード。ティが前なのを確認すると渋野は「ドライバー打ちます!」とバッグを担いでいたコーチの青木翔に宣言した。
迷いはなかった。
「追いかけているからではなくたとえトップに立っていてもドライバーを持っていた」
攻めずに勝てるわけがない。渋野は勝算ありの賭けに出たのだ。一方、青木も彼女の言葉ではなく表情を見て「狙っているな」と気づいていた。「ドライバーを打たないと後悔する」という言葉に「じゃあ、いってしまえ」と背中を押した。
「もう少し左を狙ったはずなのにあれはドプッシュ」。コーチは苦笑いでその場面を回想する。
池ギリギリのショートサイドをねらったように見えたが、実際は”ド”がつくプッシュだったとは。それでも右サイドぎりぎりに1オン成功。
「ドライバーは飛んでいたのでしっかり振れば届くと思ってました。ピン方向のはずが思ったより右に出たけれど1オンしたのは大きかった」
周囲をヒヤヒヤさせながら本人は涼しい顔でギアを上げ、アクセルを踏み続ける。10メートルのイーグルトライは外したがしっかりと2パットで沈めバーディ。トップの背中を射程圏内にとらえた。
続く13番は438ヤードのパー4。ティショットをフェアウェイ右サイドに置いた渋野は残り153ヤードを7番アイアンでピン横2.5メートルにつけている。
ほぼ真っ直ぐな下りのライン。思い切りのよいストロークで球を転がし連続バーディ。通算16アンダーまで伸ばしついにリーダーボードの最上段(タイ)に帰り咲いた。
(Part2 つづく)
※「月刊ゴルフダイジェスト10月号臨時増刊 スマイル!スマイル!渋野日向子」より。Part2は9月6日(金)6時30分公開予定。
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