12本以上を同一メーカーで揃える選手の活躍が目立つ
面白いデータを目にしました。PGAツアーの2019-2020シーズンが開幕後、9人のチャンピオンが誕生していますが、そのうち14本のクラブすべてを契約メーカーのもので揃えている選手が3人。パターを除いた13本、契約メーカーのものを使用している選手がやはり3人。12本を契約メーカーのクラブで揃えている選手が2人いたというのです。
以前はクラブ契約というと、ウェッジとパターを除いた10本契約といったものが多くありましたが、ロリー・マキロイが14本すべてでテーラーメイドと使用契約を交わしているように、より多くのクラブを契約先のもので揃える選手が増えているように感じます。なぜか、これには3つの理由があると思います。
まずひとつめ。それは、単純に同一メーカーで揃えたほうが統一感が出るという理由です。テーラーメイドならテーラメイド、キャロウェイならキャロウェイ、ピンならピンで揃えたほうが、セットとしての流れは簡単に揃いますし、プロの場合ツアーでのメンテナンスなども容易になるというメリットがあります。
ふたつめの理由は、米国のクラブメーカーには割と明確な“色”があるように見受けられるということが挙げられると思います。たとえば、キャロウェイはつかまりのいいクラブを作るのが上手いですし、テーラーメイドやタイトリストは球筋をコントロールするクラブを作るのに長けている。私の契約先でもあるピンは、両者の中間で、どんな球筋のプレーヤーにもアジャストできるのが強み……といったようなイメージです。ひとつ目の理由とも重複しますが、それだけに同一メーカーで揃えたほうが、弾道を揃えやすいというメリットがあるわけです。
そしてみっつめ、これがもっとも根源的な理由な気がしますが、最近のPGAツアーのプロたちは、驚くほど自分の使用スペックにこだわりがないということが挙げられると思います。
先日、同じ契約先のつながりで、バッバ・ワトソンのクラブ選びについて直接話を聞く機会がありました。マスターズ2勝のレフティは果たしてどんなスペックへのこだわりを持っているのか? と興味深く聞いたのですが、バッバは「スペック? 彼に聞いてくれ」とピンのツアー担当を指差しただけ。長さも、バランスも、シャフトの硬さも、なんにも把握していなかったのです。自分で把握しているのは「下巻きテープは15枚使っているよ」ということだけ。下巻きテープ15枚って……。
バッバは意地悪で言ったのでも、アメリカンジョークを披露したのでもありません、本当に、真顔で知らないのです(ちなみに、トニー・フィナウに聞いても似たような答えでした)。これは日本のプロではありえません。日本のプロで「スペックを知らない」というのは、たとえば使用しているドライバーの重心距離の数値や、慣性モーメントの数値を知らないとかそういうレベル。刀は武士の命、みたいな価値観の延長線上で自分の使う道具を自分の分身のようにみなす文化の影響なのか、日本人プロはクラブに非常に強いこだわりを持ちます。
日本のプロに契約フリーが多いのは、たとえばドライバーはピンで、フェアウェイウッドは少し前のM2、アイアンはミズノでウェッジはタイトリストのボーケイ、パターはスコッティ・キャメロン、といったように、1本1本自分のメガネにかなったクラブを精査したいという気持ちが背景にあると思います。
PGAツアーの選手たちの多くは、そのような手間をかけず、契約先のクラブで揃え、自分が信頼するツアー担当に調整は丸投げして、トラックマンの数値がいいものをこだわりなく使用し、あとは自分のパフォーマンスのことだけを考える。そんな、いい意味での鈍感力を持っているように思えるのです。
かくいう私も、クラブにはスペックに至るまで徹底的にこだわりたい派。契約先のピンの中でどのモデルがいいか? シャフトは? シャフトを入れる角度は? ライ角は? グリップは? バランスは? と、自分なりに細部に至るまでこだわり抜いています。それでも、昨今のPGAツアー選手の契約先のクラブで揃える傾向、そして実際に自分の耳で聞いたバッバ・ワトソンの圧倒的なこだわりの“なさ”を思うと、あんまりああだこうだ考えないほうが結果がいいのかも……そんなふうに最近では考えるようになってきました。
でも、そうはいってもやっぱり、自分の使う道具にはとことんこだわりたいですよね、日本人としては(笑)。
写真/姉崎正