飛距離の差が少ないことが大きい
日本開催の米女子ツアー「TOTOジャパンクラシック」は、鈴木愛選手の優勝で幕を閉じました。トータル17アンダーで2位とは3打もの差をつけての勝利です。
畑岡奈紗選手、横峯さくら選手を含む43名の米女子ツアーメンバーと、日本女子ツアーの賞金ランク上位35名の総勢78名が参戦した今回の試合。世界レベルの舞台で優勝をつかんだ鈴木選手の実力ももちろんですが、小祝さくら選手、菊地絵理香選手の両名が6位タイ、13位タイに渋野日向子選手、16位タイに来季から米女子ツアーに主戦場を移す河本結選手と、日本女子ツアーの面々も健闘を見せてくれました。
今年8月に行われた「AIG全英女子オープン」で、渋野選手が日本人史上2人目の海外メジャー制覇を成し遂げたことに加え、今回の鈴木選手の優勝や上位に食い込んだ選手たちの活躍を見ると、米女子ツアーと日本女子ツアーの差はそこまで大きなものではないと感じさせてくれました。
その大きな要因は「飛距離の差が大きく開いていない」ことにあると思います。
PGAツアーと日本男子ツアーのレベルに大きな差があると言われるのは、PGAツアーメンバーがキャリーで300ヤード飛ばすドライバーショットと、高い弾道と飛距離に加えてピンポイントで狙えるアイアンの精度を持っているからです。
実際、日本開催のPGAツアー「ZOZOチャンピオンシップ」で上位に食い込んだ日本人選手は、タイガー・ウッズと優勝争いを繰り広げた松山英樹選手だけでした。松山英樹選手は、日本人ではありますが、いまやPGAツアーのトップ選手と呼ぶほうがしっくりきます。
米女子ツアーにも飛ばし屋はいます。TOTOにも出場したレクシー・トンプソン選手は、今大会3日間で平均276.17ヤードと圧倒的な飛距離を見せてくれました。その一方で、TOTOで2位だったキム・ヒョージュ選手を見てみると、3日間の平均飛距離は227.83ヤード。決して飛距離でアドバンテージを得ているわけではありません。優勝した鈴木選手も3日間平均241.50ヤードです。
もちろん飛距離が出るに越したことはありませんが、現状の日本人選手たちが飛距離面で米女子ツアーの面々に見劣りするということはないでしょう。それよりも重要なのが、ショットの正確性や、アプローチやパッティング、いわゆるショートゲームの技術。今回優勝した鈴木選手も、パットを含めたグリーン周りがとくに上手い選手ですよね。
海外勢のアドバンテージは環境に適応できる「小技の引き出し」
米女子ツアーメンバーは世界各地を転戦していくことになるので、その都度特色の異なる芝でプレーしています。芝への対応力やアプローチの引き出しの多さは、世界の様々なコースでプレーしているという経験値において、米女子ツアーメンバーに分があると言っていいでしょう。
実際にTOTOでも、普段プレーする機会が少ないはずの日本の高麗芝に対してしっかり対応し、上位に食い込んできています。
これに加えて、世界中を転戦する都合上移動距離も多く、食生活や言葉の壁……米女子ツアーにはゴルフのプレー以外に結果を左右する要因がたくさんあるんです。実際に米女子ツアー優勝という結果を示した鈴木選手、渋野選手の海外進出を望む声は国内外で出ているかと思いますが、これらを踏まえて挑まないと、ゴルフの内容が通用したとしても環境に慣れずパフォーマンスを十全に発揮することが難しくなってきますし、念頭に置いていたとしてもツアーの環境に慣れるには時間がかかりそうです。
ただ、海外に行って活躍することで、彼女たちを目指す次世代のプレーヤーが増えるのは間違いないでしょう。渋野選手ら1998年度生まれの“黄金世代”はまさに、幼少期に宮里藍選手の活躍を見て憧れた世代と言えますよね。
渋野選手や鈴木選手が“世界との距離”を示してくれたことで、近い未来、海外へ挑戦する選手が増えてくるかもしれません。海外で経験を積み、その上で日本女子ツアーで成長した姿を見せてくれれば、日本女子ツアー全体のレベルがさらに上がることになるのは間違いないでしょう。