「三井住友VISA太平洋マスターズ」で史上4人目のアマチュア優勝を果たした金谷拓実。過去にアマチュア優勝を果たしたのは、倉本昌弘、石川遼、松山英樹と錚々たるメンバーだ。金谷もまた彼らに比肩する大選手になる可能性があるだろう。
金谷の特徴は豪打ではなく、緻密なマネジメントとショットの正確性、そしてショートゲームだ。特にパッティングの上手さは眼を見張るものがある。
そんな金谷のパッティングスタイルは特徴的だ。ボールに近く立ち、かなりハンドアップにして構える。パターのライ角もおそらくアップライトに調整しているだろう。
このスタイルを採用している選手は少なくない。代表的なのはシン・ジエだ。浅めの前傾で手首はかなりアップライトに構える。ボール位置は目の下あたりだが、前傾が浅い分、必然的にカラダから近くなる。また、ゴルフの科学者と呼ばれるブライソン・デシャンボーも特徴的な彼のスイングと同様、パッティングもかなりハンドアップに構える。
古くは渡辺司などもこのスタイルだが、渡辺の場合、パターのヒールが浮くほどハンドアップに構えていて、ボール位置は目の下よりも遥かに内側にある。その逆に、松山英樹やミシェル・ウィーが前傾をかなり深くして構えていた時期があることも思い出される。どちらが正解というものではないようだ。
ハンドアップでボールに近く構えるスタイルには、どんな利点があるのだろうか。恵比寿でパッティング専門のレッスンを展開する大本研太郎プロに聞いてみた。
「ハンドアップにする利点は、腕にかかるテンションが減ることです。その分、テークバックがスムーズに上がりやすくなります。また近く立って小さく構えると、繊細なタッチは出しやすくなります。逆にボールから遠く、スタンス幅が大きなアドレスはタッチが出しにくいと言えますね。良いことばかりではなくて、ボールに近いと、テークバックが外に上がりやすい弊害もあります」(大本プロ)
また、ショットとの連動という点で課題があるとも指摘する。
「たとえば、シン・ジエ選手の場合は、ショットでも前傾角度が浅く、パッティングとの一貫性が感じられます。金谷選手はショットとパッティングはそれほど連動していません。将来的には、ショットのイメージをパッティングでも活かすような方向性のほうが良さそうです」
ショートゲームの名手であるプロコーチ、石井忍プロにも聞いてみた。
「逆に、フラットになるほどフェースの開閉が起きやすく、それに伴いシャフトへのトルクもかかってきます。その力は上手く使えば転がりの良さにもつながりますが、同時にリピートしづらくなるというデメリットがあります。アップライトにすると、その影響は小さく、ヘッド軌道も安定しやすいでしょう」
石井プロによれば、パターヘッドのヒールが浮くほどアップライトに構えると、その場合はフェースが開閉ではなく、閉開するように動くという。
そもそもゴルフルールでは、シャフト軸が鉛直線に対して10度以上必要と定められている。つまりライ角80度以下でなくてはならない。裏を返せば、垂直の90度に近いほど、有利になる側面があるのではないだろうか。ヒールが浮くほどアップライトに構えるプロは、ルール内でより垂直に近いストロークを実現しようと苦心しているように見える。
金谷のパッティングも同様に彼なりの工夫を感じられるパッティングスタイルだ。これは試してみても面白いのではないだろうか。筆者も早速パターを80度近くまでアップライトにして、ハンドアップなスタイルを試してみたい。検証したら当連載で再度取りあげてみようと思う。