「優勝?そんなに甘くはないと思います」(辻村)
2016年にナショナルチーム入りし、2018年には「日本女子アマ」「日本ジュニア」のアマチュア2冠に輝くなど、鳴り物入りでプロの門を叩く吉田優利。12月の「ファイナルQT」でも2アンダーの20位。2020年のツアー前半戦出場権を勝ち取るなど、非凡な実力を披露した。
今年のツアーでは同学年でアマ時代はライバルの1人でもあった古江彩佳が「富士通レディース」でアマチュア優勝を飾っただけに、プロ1年目から優勝を期待されるが、辻村は「そんなに甘くはないと思います」と語る。
「客観的に見て、1年間、戦える体力や技術面での安定感があるかといえば『まだまだ』だと思っています。当然、結果を出すために目先は大事なんですけど、長くこの世界でやっていくためには、優利には変えていかないといけない部分があります。それは、年間を通じてスランプなくやるためには欠かせないものだと思っているので」
その「変えていかないといけない部分」どはなにか? また、どう修正を施していくつもりなのか?
「パッティングでの決定力を上げる必要性と、スウィング面で何点か修正していかないといけないと思っています。彼女には器用さがあるがゆえにこれまでできてしまっていた部分です」
器用さゆえにできてしまう。それはいいことにも思えるが、プロの世界で生き残っていくためにはそれだけではいけないと辻村は考えているようだ。
「これは彼女がそもそも持つセンスの良さにも通じる部分なのですが、スウィング動作で、ポイントがちょっとでもズレたと感じると、瞬時に体が反応して、手や体の使い方でカバーできてしまう。ポイントがズレたら、真っすぐ飛びませんよね? それを体の使い方でクラブの軌道を修正してボールを真っすぐ運べてしまう。ある意味ではセンスですが、同時にこれは体のどこかに無理をかけていることでもあるのです」
1試合だけ結果を残すならそれでもいいかもしれないが、年間を通して戦い、それを何年も続けるツアープロとしては「結果としてケガにつながる可能性がある」(辻村)というわけだ。
ツアールーキーの来季ノルマ=「毎日1アンダーの吉田優利」
もちろん、いくつかある課題を克服すれば「凄い選手になると思っています。それも世界レベルで」と辻村氏は言う。そして「彼女の一番の長所は『頭の良さ』」と指摘する。
「将来設計が明確なんです。『〇歳で日本の賞金王』『〇歳で米ツアー』という時系列の目標を持って、それを踏まえ、今どんな練習がどれぐらい必要かを理解して練習するので、見ている側からしても『無駄な練習している』と思ったことが優利の場合、ほとんどありません」
さらにそんな賢さは、すでにゴルフのスコアにも反映されているという。
「いつもイーブンパー前後で回りますよね? この勝負能力の高さはもの凄い。実際にQTファイナルでもそうでした。スウィングは50点ぐらいなのに(笑)。このゴルフ頭脳に、スウィング面が向上できれば、3年後にはどんなコースでも『1日3アンダー』の選手になれます。なので来年は『優勝を狙え』ではなく『毎日、1アンダーの優利』と呼ばれるようになれ(笑)と。目先の目標に捉われず、彼女には3年後に日本のトップを狙ってもらいたいと思っています」
まずは愛弟子に「急がば回れ」の精神を叩き込むつもりだという辻村氏。
順調な成長曲線を描き3年後には「1日3アンダー」を安定して見込める選手に。あえて遠回りする育成ビジョンが得る‟成果”として「そうなれば4日間大会でも毎回、優勝争いをするのが普通の選手になる。まさに『無双』ですよね?」と、3年後には連戦連勝プロに逸材を導いていくという。