バーディ1個につき500ドル、イーグル1個につき1000ドル寄付と決めていた
今年のソニーオープン・イン・ハワイは、珍しく連日雨と強風に見舞われた1週間に終わった。1日中すっきり晴れ渡る日は皆無で、常夏の島・ハワイとはいえ、肌寒い1週間だった。
そして最終日も時折風雨が強まり、グリーンに水が溜まるのを掻き出す作業を行いながら、なんとか72ホールを完遂。優勝したのはオーストラリアのキャメロン・スミス(26歳)。この優勝でフェデックスカップで40位から5位に浮上した。
3日目を終えて首位に立っていたブレンダン・スティールとは3打差の2位でスタートし、終盤ではウェブ・シンプソン、グレアム・マクドウェルらメジャーチャンピオンたちの追い上げもあり、1打をめぐる混戦模様を呈していたが、最終ホールで約3メートルのバーディパットをきっちり決めたスミスが、スティールに並びプレーオフに突入した。
暗闇迫る勝負の決着は1ホール目でついた。スミスがティショットを右のラフに打ち込み、目の前に木があるため、グリーンを狙うには低い弾道で狙うしかなかった。しかし、起死回生の2打目でうまくピンそばに寄せ、スティールに対し先制パンチ。スミスよりも飛んでおり、しかもフェアウェイの絶好の位置から2打目を迎えるスティールが圧倒的に有利に見えたが、スミスのナイスショットに圧倒されたのか、グリーン奥に打ち込みボギー。あっけなくスミスにツアー初優勝が転がり込んだ。
「ボクがツアーに出てから4〜5年経過しているが、こうしてやっと自分の力で試合に優勝することができて本当によかった」
スミスは2017年にヨナス・ブリクストとペアを組んで、チューリッヒクラシックで優勝したことがあったが、単独でのストロークプレー優勝は今までになし。過去トップ10入りを何度も経験し、「個人でのツアー初優勝はいつか?」という話をきっと何度も聞かれてきたに違いないが、これでようやくその質問からも解放されたわけだ。
スミスは先月のプレジデンツカップで善戦し、特にシングルス戦では強豪ジャスティン・トーマスを破って世界選抜チームに数少ないポイントをもたらしていたが、チームとして優勝することはできなかったものの、個人的にはあのマッチで相当自信をつけたようだ。
「あの週は、自分の人生の中でもベストと言えるくらいのゴルフができていたんだ。プレジデンツカップから今週まで、あまり時間が経っていないが、今週にもその時の好調ぶりを持ち込めたと思う」
プレジデンツカップ以来続いた好調ぶりに加え、彼には今週、達成すべきある大きなタスクがあった。それもできるだけ多くのバーディを奪い、結果的には優勝へのモチベーションの高さにつながったようだ。
彼の母国オーストラリアが森林火災で甚大が被害をもたらされているが、バーディ1個につき500ドル、イーグル1個につき1000ドルの寄付をすることに決めていた。初日は連続でボギー、トリプルボギー発進となったが、4日間を通して21個のバーディを獲得。1万500ドル(約115万円)を寄付することになった。彼の叔父であるワレンは火災で自宅を焼失し、スミスの自宅に現在居候しているというが、世界中で毎日ニュースになっている、この地球上最大級の災害は、スミスにとっても対岸の火事ではない。
昨年12月、オーストラリアのスコット・モリソン首相が、母国が気候変動による史上最大級の森林火災に見舞われてるにも関わらず、ハワイで休暇を取り、それを隠そうとしたことで大きな非難を浴びた。その火災は今も続き、何十人という人が亡くなり、何百万戸もの家屋が消失、すでに韓国と同じ大きさに匹敵する1030万ヘクタール以上が消失している。そしてコアラやカンガルーなどの約10億匹以上の野生動物も甚大な被害を受けているという。
目的は違えどハワイ行きを果たしたオーストラリア人の二人が、片や内緒で休暇を取り、国民から非難轟々。そして片や26歳の母国思いのオージーが、ハワイの試合で母国の危機を救おうと戦う姿との対比は、対照的で滑稽だ。アジアンツアーでは同じくオージーのウェイド・オームスビーが、香港オープンで優勝。世界で戦うオージーたちの祖国の危機を思う心は同じ。今こそ、一致団結して国を救おうという気持ちの強さが、彼らの成績に現れている気がする。