兵庫県西脇市にあるパインレークGCで、現在約20名のジュニアゴルファーを指導する青木翔コーチ。私が取材に訪れた日は6名のジュニアが黙々とショートゲームの練習に励んでいました。
アカデミーを開講するパインレークGCにはアプローチとバンカーを練習できるスペースもあり、練習環境としては上々。「昨日は渋野(日向子)も来ていましたよ」と青木コーチ。
しばらく様子を見てみると、たとえば横一列に並んでボールを打つような姿は見られず、それぞれがテーマを持って自分なりのメニューに取り組んでいることがわかってきました。
グリーン周りのアプローチ練習をする高校二年生の上野麟欧(りおん)君には、「下半身、とくにお尻を使ってクラブを押し込むように打ってごらん」と手先ではなく下半身を使って打つ基本の動作を身振り手振りを織り交ぜて指導していました。
上野君はこのあと2時間みっちりとこの動きを繰り返して練習。時折、青木コーチがチェックして「今の感じ!」と声をかけながら黙々と球を打ち。冬の薄い芝からでもしっかりコンタクトし乾いたインパクト音を聞かせてくれるようになっていました。
青木コーチが教えているのは、派手なテクニックではなく、地味な“基本”です。ボールの位置や構え方、そしてクラブを動かすにはどんな体の動きが重要かを説きます。ジュニアたちが繰り返すのは非常に地味な練習ですが、自ら打ってみせたり、勝負を挑むなどゲーム性を取り入れたりしながら、飽きずに楽しく練習できるような指導していました。
朝の10時から夕方5時まで、途中おにぎりやパンをかじりながらみっちり7時間。練習時間が終わりに近づくと、練習グリーンで1メートルから5メートルまで5球連続で入れる練習や、カップの周りに9個のマークを置き、7球入れるまで終われない渋野日向子でお馴染みの練習方法に移ります。
練習グリーンの傾斜が結構強くて、これをやり続けたらパットはかなり上手くなりそうです。残念ながらすべて決めきれなかったジュニアには、ペナルティとして“筋トレ”が待っています。もちろん、それを強制するというわけではなく、ジュニアたちも笑顔で取り組んでいます。
印象的なのは生徒の自主性を重んじる姿。青木コーチは、その理由をこう説明します。
「プロを目指すジュニアのうちプロになれる子は限られますし、プロとして活躍できる子となるとさらに少なくなると思います。それでもジュニアのころから自立し、自分の考えで行動できるようになることも、ここでは学んで欲しいんです」
ゴルフは、一度スタートしてしまえば、コーチであってもアドバイスはできません。だからこそ、自分で考え修正できる力を養うことは非常に大事です。そして、そんな青木コーチは、教わり上手でもあります。
「自分でも最近アプローチが悪くなっていて、同じ用具契約の小野寺誠プロに動画を送って見てもらって教わったんですよ。そうしたらまたよくなってきました(笑)。教え方やコーチとしてのあり方なんかは(上田桃子、小祝さくららを指導する)辻村明志コーチにアドバイスをもらうこともあります」(青木)
渋野日向子選手は練習して疑問が生じると、すぐに青木コーチにラインを送ってくると言いますが、その姿勢はもしかしたら師匠から学んだものなのかもしれません。
「渋野日向子を指導するようになったときには、昨年のような活躍をするとは1ミリも思っていなかった」と青木コーチは言いますが、渋野選手が昨年ブレークした背景には、自分の頭で考え、わからないことはわかる人に聞くという姿勢、青木コーチの教えがあったのは間違いないように思います。
プレーヤーがコーチの操り人形になるのではなく、自ら考えて行動したり発言できることは、すごく大事なことです。技術を教えるだけではなく、選手一人一人と向き合い、保護者も含めて信頼関係を築く。
青木翔コーチのスタイルが、シンデレラ・渋野日向子誕生の裏側にあったことを、改めてわかった取材でした。