スポーツは「健康な脳」を育む
リオオリンピックから種目が復活したゴルフ。黄金世代、プラチナ世代と言われる女子選手の活躍と20年の東京大会の代表争いが注目されています。なかでも、全英女子オープンで優勝し、樋口久子さんに続いて日本人2人目のメジャーチャンピオンになった渋野日向子選手は、日本中から熱い視線が送られています。
その渋野日向子選手の口癖が、「勉強」です。たとえば19年、日本女子オープン2連覇の畑岡奈紗選手と同組になったときには、「しっかり勉強したい」。また同じ年の、やはりメジャー競技である日本女子プロ選手権の予選で、リオ五輪の金メダリスト、韓国のパク・インビと回ることになったときも、
「世界ランク1位の選手だから、すごく勉強になります。ありがたいですね。勉強、勉強」
と、とても嬉しそうにインタビューに答えていた姿が印象的です。
さらに日本初のPGAツアーとなったZOZOチャンピオンシップで、タイガー・ウッズと対面したときには、
「ショットは次元が違いすぎるけど、アプローチの柔らかさは勉強になりました。スウィングはとても参考になります」
渋野選手を一流たらしめているのは、この「勉強」の口癖からもわかるように、強い探究心と向上心、つまり「健康な脳」なのです。
渋野選手は岡山の作陽高校の出身ですが、スポーツコースに進学しつつも、学業で特待生になるほど優秀な生徒でした。スポーツコースに入ると、どうしても競技を優先し、勉強はもとより二度とない学校生活を謳歌できないことも多いのですが、渋野選手の場合、文化祭や体育祭、修学旅行といった学校行事も楽しむ、文武両道とはいえ普通の高校生だったようです。
年々、スポーツはジュニア化が進み、ひとつの競技に専念する年齢が早くなる傾向にあります。たしかに技術の習得といった面では高い効果があることは間違いありませんが、一方でバーンアウト(燃え尽き)症候群といった心の問題を引き起こす原因にもなっています。アメリカでは一流アスリートが高校までは多くのスポーツを体験しています。NCAA(全米大学体育協会)にも学業に対する厳しい規定があり、それがバランスのいい脳と優秀なアスリートを育てていることは、親はもとより指導者たちも覚えておかなくてはならないでしょう。
いずれにしても探究心と向上心は、同じ練習をするにも効果が高く、同時に笑顔を生み出します。渋野選手の天真爛漫の笑顔は、そうやってつくられていたのです。
「頭がよくなる運動教室 オリンピック子育て論」(ゴルフダイジェスト社)より ※一部改変