180ccのパーシモンと460ccのチタン。その違いが新たなスウィング理論を生む
ゴルフのスウィング理論は、100年以上前から脈々と続いていて、その時代に合わせて流行りの理論というものもあります。
ただ、重要なのは、スウィング理論があって、それに合わせてゴルフクラブがあるというわけではないということです。あくまでも、ゴルフクラブというものがあって、それの“取説”としてゴルフスウィング理論がある。そう考えるのが、一番わかりやすいと思います。
たとえばここに、ベン・ホーガンのパーシモンのドライバーと、プロギアの「RS-F」ドライバーがあります。このパーシモンのヘッド体積は180cc。一方、プロギアは460ccです。このふたつのヘッドを同じスウィング理論で打った場合、両方100%のパフォーマンスを引き出すことはできません。
その理由のひとつが重心距離の違いです。パーシモンの頃、重心距離は31ミリくらいでしたが、現在は40ミリ前後と、およそ1センチ変わっています。重心距離が長くなると、その分フェースは返りにくくなり、フェースの管理が難しくなります。
この違いはものすごく大きな違いで、かつてジャンボ尾崎(将司)プロが重心位置を1ミリ変えたら1万球練習する必要があると語っていたのをなにかの記事で読んだ記憶があります。1ミリでもそれだけ大変なんですから、1センチの違いがどれほど大きいかがわかると思います。
ドライバーに話を戻すと、パーシモン時代は重心距離が短かく、クラブをターンさせやすかったため、ウィークグリップで握ってトップでフェースをオープンにし、ダウンスウィングでフェースを返すベン・ホーガン理論が浸透していました。当時のクラブはフェース面がシャフトの軸線上より左側にあったため、フェースを返しても左に行くリスクが少なかったこともそこには影響しています。
それに対して今のクラブは重心距離が長く、重心深度が深くなった影響もあってシャフトの軸線より右側にフェースがあり、芯の位置もシャフトから外れています。そのため、ダウンでフェースが返りにくく、無理やり返そうとすると返り過ぎて、左に飛んでしまいます。
クラブによるスウィングの違いは、グリップに表れる
クラブの違いによるスウィングの変化は、選手のグリップに現れています。ベン・ホーガンは、右手グリップの親指と人差し指で作るVの字があごを指していましたが、ダスティン・ジョンソンは右手のVが右肩を指すストロンググリップです。
基本的に、クラブの重心距離が長くなるほど、Vが右を向いていないとフェースがスクェアに戻ってこなくなります。最新のドライバーは、ダルマ落としでダルマの下の円筒を落とすように使い、(フェースローテーションを抑えて)体のローテーションで打っていく。DJに限らず、このように振っている選手が圧倒的に多いです。ウィーク派は探すのが難しいほどですが、ウィーク派の雄といえば、松山英樹選手がいます。
DJと松山選手を比べると、アドレスでの手の位置も違います。松山選手は左股関節よりだいぶ内側にグリップエンドがある。これはウィークグリップの特徴で、ダウンではフェースを戻しながら体の真ん中でインパクトを迎えます。
一方、ストロングに握るDJは、グリップエンドが左股関節の前にあります。そこから、さらにフォワードプレスを入れてからクラブを上げ、インパクトは左足の前、またはさらに外側です。
「インパクトはハンドファーストがいい」とよく言われます。実際、ウィークグリップの選手も、ストロンググリップの選手もインパクトではハンドファーストになっています。しかし、ストロンググリップのほうがその度合いが強く、その度合いはグリップのストロング度合いに比例する傾向があるんです。
体の捻転の深さであったり、股関節のパワーを使っている点であったり、スウィング中に動かすべき点を動かし、止めるべき点を止めているといった共通点がトップ選手にはありますが、クラブによってグリップの握り方などは選手によってこのように大きく変わってくるのです。
では、アマチュアゴルファーにはどちらのグリップが向いているのか? 基本的に、アマチュアの方の多くはボールがつかまらなくて悩んでいる場合が多いですよね。だから、多くのアマチュアに推奨しているのは、DJ式のストロンググリップです。そのほうがフェースがスクェアに戻りやすいですから。(談)