前回の記事では行動強化のために報酬を上手に使う方法についてご紹介していきました。
今回も動機付けに関連する話です。今回は「好きでやっていたことに報酬が絡むとやる気が下がることがある」という内容です。
早速ですが、あなたは「アンダーマイニング効果」という言葉を聞いたことがありますか? あまり聞きなれない言葉だと思います。
まずはこのアンダーマイニング効果について説明すると、最初は「面白い、もっと上手くなって競技
を楽しみたい」と内発的動機で行っていた行動に対し、金銭報酬などの外発的な動機が加わることでそれ以降は報酬がないとモチベーションが高まらなくなる現象をさします。

報酬だけでなく、ゴルフを楽しむことが上達に繋がる(撮影/増田保雄)
たとえば、最初はただ単純にゴルフが好きで楽しいからゴルフをやっていたジュニア選手に対し親御さんがもっと頑張ってほしいという想いから「次の試合で勝ったらこれを買ってあげるよ」「このスコアを切ったらお小遣いの額をあげてあげるよ」などと報酬を複数回提示されると、それ以降報酬がないとやる気にならない、以前のような内発的に自然とゴルフを練習していたようなモチベーションが湧いてこなくなる。アンダーマイニング効果とはこのようなイメージです。
好きでやっていることに対し、後に何らかの報酬が手に入るとなるとそれ以降は報酬がないとやる気が下がってしまうというのです。
プロゴルファーからも同じような話を聞きます。プロになってから学生時代のようなモチベーションで楽しむゴルフができなくなり、パフォーマンスも上がらない。それももしかすると下記の例のようにアンダーマイニング効果が影響しているかもしれません。
次のようなフィクションのストーリーは意外とプロゴルファーの中では「あるある」かもしれません。
学生時代からゴルフが大好きで上達することや高いレベルを目標に内発的動機でプレーしてきたゴルファーAさん。上手くなるために努力を惜しまず楽しみながらゴルフに取り組み、夢であったツアープロになりました。そして、試合で上位に入ることで多額の賞金を手にします。そして、若手ながら上位に食い込む将来性にいくつかの企業がスポンサーとしてサポートしてくるようになりました。契約金もすごい金額です。
そして、Aさんはこう思います。「ゴルフで頑張ればこんなにお金を稼げるんだ。将来のためにももっと稼げるように頑張ろう!」そして、いつしかAさんは学生時代のような内発的動機によるゴルフへの取り組みが「稼ぐために、稼ぐために」と金銭などの報酬のためにゴルフをするという外発的動機に変わってしまいました。
そして、数年後、スランプによりツアーのシードから漏れてしまったAさん。来年もう一度ツアーに戻るために、年末のQTでの出場権獲得に向けて頑張ることを決めます。しかし、なぜか以前のようなモチベーションが湧いてきません。ワンデーの試合や、推薦で出場できる下部ツアーの試合も月に1度ほどあります。しかし、試合は迫ってきてもなぜか練習への真剣さや集中力にかけるのです。なぜかと考えているうちにAさんは気がつきました。
「下部ツアーは優勝してもこれくらいの賞金か……と考えている自分がいる。おれはプロになってから稼ぐことばかりを考えてゴルフをしていた気がする…。だから、今やる気にならないんだ」と。報酬がないと頑張れない自分になっていたとAさんは知るのです。(この話はフィクションです)
このように「外発的動機>内発的動機」になると外からの報酬がないと頑張れないという状態になりモチベーションの維持は難しくなりそうです。お子さんが本格的にゴルフをしている方やゴルフ指導をされている方は競技者が「内発的動機>外発的動機」の状態、そもそも楽しくて、好きでやっているという状態に導くことが大切だと思いますし、私自身もメンタルコーチとして指導で意識しているポイントです。