大事なのは大きさよりも脳細胞の絡み合い
大脳の構造と働きについて、少しみてみることにしましょう。
脳のなかでもっとも大きいのが、その名のとおり大脳(終脳)です。あらゆる動物のなかで、もっとも発達した大脳を持っているのが人間です。それは人間の人間たる理由であり、人間らしく生きるとは大脳をフル稼働させること、といっても過言ではありません。
大脳を含む人間の脳は、個人差はありますが1200gから1500gだとされています。生まれたばかりの赤ちゃんは約400g、これがヨチヨチ歩きをする2~3歳頃には倍以上の約900gになります。さらに小学校低学年までにはほぼ成人の脳の大きさの、約95%程度にまで成長するとされています。ちなみに成人の大脳の重さは800~1000gです。
もっとも、脳が大きいからといって、頭がいいというわけではありません。
というのも大脳は最新の研究では約210億個のニューロン(神経細胞)と、その約50倍から100倍あるとされるグリア細胞(神経膠細胞)によって成り立っています。こうした脳細胞の数の多さも、人間の人間たる理由といえるでしょう。
ニューロンは情報伝達と情報処理の役割を担います。ひとつのニューロンからは、木の枝のような樹状突起が四方八方に伸び、他のニューロンとシナプスと呼ばれる連結器でつながります。こうして出来上がった神経回路で電気信号をやりとりして、情報を伝達、処理しているのです。ひとつのニューロンは0.1mmから0.005mmというごく小さなものですが、これを一直線につなげると約150万km。これは実に地球37.5周分という長さです。
グリア細胞は、ニューロンの情報の伝達処理スピードを早める役割を果たします。グリア細胞はニューロンに栄養を供給したり、また傷ついたときには修復、再生させるほか、ニューロンの制御を担当していることも最新の研究で明らかになってきました。
この大脳の情報伝達ネットワークがもっとも成長するのがゴールデンエイジまでで、それを効率的に成長させる方法が遊びやスポーツなのです。
スポーツはすればするほど頭がよくなる
次に人間の体の司令塔ともいえる、大脳の構造についてみてみましょう。
イラストは大脳を横から見たものですが、前方から前頭葉、頭頂葉、後頭葉、さらに後頭葉から左右に伸びる側頭葉によって構成されています。
それぞれの部位にはそれぞれの役割があります。ここでは体を動かすことによる影響を、部位ごとに考えてみましょう。
前頭葉は思考、創造、意思の決定や情操面の働きを担当しますが、運動の指令や計画もこの部分で行います。歩く、走る、跳ぶなど、運動の指令を出す部分は運動前野です。さらに運動野は運動をコントロールします。
頭頂葉は知覚、判断や物事を理解する役割を受けもっています。たとえば野球でタイミングをとってバットを振るなどはこの部分で行います。視覚部分を受け持つのが後頭葉。
さらに頭頂葉と後頭葉の境目あたりでは、監督の指示や戦術を理解する言語理解や、その前部には聴覚確認の部分があり、さらに側頭葉には身につけた技術や戦術などを記憶する部分があります。
このようにスポーツは想像以上に頭を使っているので、知らないうちに大脳がより活性化するのです。
みなさんも左脳派、右脳派といった言葉を聞いたことがあるでしょう。左脳は右半身を、右脳は左半身をコントロールしますが、左脳は会話や計算といった論理的な思考を、右脳は直感や想像力などを司る脳です。
左脳派、右脳派といっても、まったく一方の脳だけを使っている人はいません。俗に左脳派は理論好き、右脳派は芸術家肌などといわれますが、重要なのは左右のバランスであり、そのためには左右それぞれの大脳を上手に鍛えてあげることです。たとえばゴルフの片山晋呉選手は、右利きでありながら食事では左手で箸を持つようにしています。これも大脳をバランスよく鍛える、つまり体を自在に動かすための片山選手なりの練習法、それも効果的な練習法です。スポーツは知らずのうちに 体全体を使いますから、脳もバランスよく成長するのです。
「頭がよくなる運動教室 オリンピック子育て論」(ゴルフダイジェスト社)より ※一部改変