昨年ツアールーキーながら全英女子オープン制覇という快挙を成し遂げ、賞金女王争いも繰り広げた渋野日向子。そんな彼女をサポートしているコーチ・青木翔は、自らの指導法を「選手が自主的に課題を解決できるように成長をサポートする“コーチング”」だと語る。それは一体どのようなものなのか? 自身の著書「打ち方は教えない」から、“しぶこ”を育てた指導方法を紹介!
コーチの役割は気づかせること
スポーツに限らず、ビジネスシーンでもよく耳にするようになっている「コーチング」という言葉。その語源は「馬車」だと言われています。
馬車は、乗客を目的地へ送り届けることを目的としています。コーチは生徒を目標へ導く存在。それを行う方法だからコーチングと言うんですね。
今では広く使われている言葉なので、いろいろな解釈があると思いますが、僕はコーチングを、「選手自らが結論を出せるようにサポートすること」だと思っています。
だから、僕は答えを教えません。こちらが正しい結論(答え)を知っていても、それを教えてしまっては、選手が自ら結論を出せません。
答えを教えてあげれば目の前の問題は解決するかもしれませんが、選手には問題を解決する力が身につかないのです。
答えを教えてあげることを繰り返していれば、一度解決した問題はクリアできるようになるでしょう。ですが、答えを教わっていない新しい問題に直面したとき、自分自身の力でそれを解くのはとても難しくなります。
僕は選手に「明日俺が死んだらどうするんだ」と口酸っぱく言っています。
コーチや先生、上司、親はいつもそばにいることができません。そんな状況で問題に直面しても、一人で乗り越えられるようになること、コーチである僕はそれを目指しているのです。
少し抽象的な話になってしまったので、ゴルフのプレーを例に説明します。
選手自身の気づきが成長につながる
例えば、ベストスコアがかかった大事なパーパット。絶対に外したくないと、あなたはキャディとして同伴するコーチにラインを聞くかもしれません。
僕がコーチなら正解は教えないでしょう。ラインを教えればパットは入るかもしれません。でも次に訪れる大事な機会。あなたはプレッシャーに打ち勝ち、自分の力で正しいラインを読み切ることができないまま迎えることになってしまいます。
しぶこが全英女子オープンの優勝を決めたパットもそうでした。外せば人生でまたとない、メジャー優勝の機会を逃すかもしれない。
でもあれほどしびれる場面で、自らラインを読み切りバーディを決められれば、とてつもなく大きなものを得ることができます。その経験は彼女のゴルフだけでなく人生の糧になる。僕はしぶこが読んだラインがたとえ間違っていたとしても、同じように彼女の決断を尊重したでしょう。
大事なのは、答えよりもその経験から得られる気づきだからです。
「打ち方は教えない。」(ゴルフダイジェスト社)より ※一部改変