トップアマは「書く」ことで自分の課題をあぶり出していた
今回取材したトップアマたちは、日本シニアや県アマなどを制したことのあるタイトルホルダー。彼らはみな“マイノート”なるものを持っていて、ゴルフの合間に常に「書く」作業をしているのだった。
その中でも茨城県アマを連覇している井坂伸次さん(HC0)のノートは凄いことになっていた(画像A)。A4のノートを見せてもらうと、“ゴルフの気づき”がびっしりと書かれていたのだ。書かれている内容は、スウィングの気づいたこと、参考になるレッスン動画の話、その日のラウンドの調子などなど多岐に及ぶ。井坂さんに聞くと、約10年前にこのノートを書き始めてからスウィングが安定してきて、それが県アマの連覇につながったと言うのだ。
「自分としてはそんなに気合を入れて書いているつもりはないですが、その日のラウンドで気になったことを書き留めて、その改善点を自分なりに分析して書いているだけなんです。きれいに書こう、あとで見やすいように丁寧に書こうというつもりもないんですよ。ですからお見せするのは恥ずかしいんです(笑)」(井坂さん)
井坂流のゴルフノートのポイントは以下の4つ。
A 大事なことは大きく書くor 線を引く
B その日のゴルフの調子も書く
C 悩みだけでなく解決法も加える
D 文字でわからないときは図も描く
中でもBのポイントが面白くて、「絶好調」や「好調」というその日の満足度をしっかりと“書く”ことで、ノートを見返したときに自信につながると言うのだ。
また、ノートに書くことでわかったのが、いつも同じ課題を抱えていたということ。「トップで伸びあがる」、「切り返しでクラブが寝る」、「インパクトでスウェイする」の3つの課題が、過去のページに何度も出てきていたのだった。ノートに書くことでこうした問題点があぶりだされ、井坂さんの場合は、このうちの「トップで伸びあがる」をしっかりと克服したことで、好調につなげていったと言う。
続いて話を聞いたのは、関東を代表するトップアマの和田貴之さん。和田さんはサラリーマン競技ゴルファーとして有名で、週イチ練習、月イチゴルフという我々と変わらないゴルフ時間の中、ノートを活用することで上達していたのだ。キャディバッグの中には常にノートが入っていて、ひらめいたことを練習中にすぐに書きこむスタイルだ(画像B)。
「ひらめいたら書いて、それを試してダメだったら消す。効果があったものだけ残すようにしています。大事なところは赤で書いたりして目立つようにして常に意識できるようにしています。僕の場合は細かくは書かずに大胆に書く。競技以外のラウンド中にミスが出るとノートを見返すこともあり、僕の専属コーチみたいな感覚ですね」(和田さん)
少ない練習時間で上達していくには、やはり遠回りしないことが大事。なかなか上達できない人は気づけば同じようなところで足踏みしているケースが多いはずだ。ゴルフノートは我々が道に迷わないようなガイドラインのようなものかもしれない。
「記憶の定着」にはパソコンより手書きのほうが“はるかにいい”
では、なぜ「書くこと」が大事なのか? 気づいたときにスマートフォンのメモ機能を使って文字を打ち込んでおくのでも対応できそうだけど……。
その疑問には東京大学の言語脳科学者の“書き書き博士”こと、酒井邦嘉教授が答えてくれた。
「学生でも最近は授業をパソコンで打ち込む人も増えているんですが、記憶の定着という意味では手書きのほうがはるかにいいことは証明されています。理由を説明しましょう。キーボードを打つときはそのまま話を受け身に打ちがちなんです。キーボードに打つのはスピードは出ますが、写しているだけになりやすい。一方でノートに書くときは要点やキーワードを書く以外はちゃんと話を聞いていて、頭の中でどういう意味かなどと考える余裕が生まれている。そこが記憶力に関する差になると考えられています」(酒井教授)
酒井教授はペンを持って書くことで余裕が生まれ、そこで自問自答できる点が記憶に影響すると話す。
「書くことは自分の頭の中で整理しながら物事に向かえるので、ゴルフにおいても何かの課題に対してゆとりが生まれます。特にノートにきれいに書く必要はなくて、手書きでポイントを書き出せばいいんです」
酒井教授は他にも書くメリットを以下のように挙げてくれた。
・脳に記憶が残りやすい
・“書く”は無意識にできて、考え事もしやすい
・手書きは筆圧の違いで重要度がわかりやすい
なんでも1枚の用紙などに書くよりノートのほうがよくて、ノートはページごとにわかれているので頭の中で整理がつきやすいとのこと。またノートだと自分で書いた項目が検索しやすいというメリットもある。
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