PGAツアー「チャールズシュワブチャレンジ」でプレーオフの末破れたコリン・モリカワ。プレーオフ1ホール目で、わずか1メートルのパーパットがカップに蹴られての敗戦だった。デビュー以来一度も予選落ちがないPGAツアーの次代を担う若手は、なぜ1メートルを外したのか。ティーチングプロ・永井延宏が解説。

プレーオフの重圧のなか、モリカワはわずかにトウ寄りでヒットしていた

新型コロナウイルスの影響によるシーズン中断から、約3か月ぶりに再開されたPGAツアー「チャールズシュワブチャレンジ」。無観客での開催や、大会前に487名のPCR検査を実施するなど、アフターコロナで初の大会運営となり、いろいろな意味で注目を集める試合でした。

「満を持して」という言葉のとおり、世界ランキング上位陣や、次のメジャー戴冠候補として挙げられる期待の選手らが、キッチリとリーダーボードに顔を出しながらの4日間でしたが、勝負の行方は72ホールを終えて15アンダーで並んだ、コリン・モリカワとダニエル・バーガーのプレーオフとなりました。

画像: コリン・モリカワはプレーオフ1ホール目でパーパットを外した。果たしてその理由は?(写真はGetty Images)

コリン・モリカワはプレーオフ1ホール目でパーパットを外した。果たしてその理由は?(写真はGetty Images)

プレーオフの1ホール目、共にパーオンを逃してのパーセーブ合戦となりました。モリカワはティショットを曲げたせいで、3打目はやや距離のあるアプローチとなりましたが、1メートルちょっとに寄せました。

一方、ピンを差したセカンドショットがオーバーして、グリーン奥のラフにボールが埋もれたバーガーは、この難しいライからのショートチップを60センチに寄せ、先にパットしてパーセーブ。モリカワのパーパットを見守ります。

テレビ画面には、カップ方向からのアップで、ボールとヘッドを大きくズームでとらえる画像に切り替わりました。そして、ヘッドがテークバックされてインパクトし、打ち出されたボールは、カップに向かう途中から右にそれてゆきました。それでもカップをとらえて、右淵に沈みかけたのですが、ボールは淵をクルッと回って飛び出してしまいました。

この瞬間、バーガーの優勝が決定しましたが、何ともいえない空気がそこにはあったように見えました。

私は、その様子を、ライブ放送で見ていたのですが、そのモリカワのストローク時のヘッドがアップになった映像から、インパクトで打点がトウ側にズレたことで、ヘッドが開く方向のチカラが加わったままボールをリリースしてしまい、狙いより一筋ほど右に出てしまったのではないか? と思いました。

その後、ネットのニュースにこの動画があったので繰り返し見ました。やはりアドレス時は、ほぼフェースのセンターにボールがありますが、インパクト時には、少しトウ側にズレています。さらに、ボールが離れたあとのヘッド軌道は、右に外すのを嫌ったのか左側に引き込み気味で、カップ右側に向かうボールと左に引き込むヘッドで、それぞれの向かう方向が分かれてしまっているのもハッキリわかります。

画像: モリカワが外した1メートルのパットの動画を見ると、アドレス時にはフェースセンターにあるボールが、インパクトではほんのわずかにトウ側にあるのがわかる(画像はPGAツアー公式サイトの画面キャプチャ)

モリカワが外した1メートルのパットの動画を見ると、アドレス時にはフェースセンターにあるボールが、インパクトではほんのわずかにトウ側にあるのがわかる(画像はPGAツアー公式サイトの画面キャプチャ)

たぶん、ライン的には、ボール半分くらいは右へ動くと読んでいたのですが、最終的には「真ん中・強め」という決断だったのでしょう。しかし、その右への危惧が心を動かし、ヘッドを左に引き込んだ分、打点はトウ側にズレてしまったのか? と考えました。

後で見た最終ラウンドのハイライト映像では、ミドルパットを見事に決めるモリカワのパッティングストロークがありましたが、これはキレイにヘッドが出て、ボールが転がり出す方向とヘッドが出ていく方向が揃っています。いわゆる「つかまった」状態でのストロークができていました。

モリカワほどの選手でも、心の動きによって技術が乱されるのですから、ゴルフとは本当に奥が深いものだと、あらためて感じさせてくれましたが、このケースから、ショートパットの確率を上げる知識をご紹介したいと思います。

トウで打つか、ヒールで打つか

パッティングの基本として、フェース面上の芯でボールをとらえるというのは、間違いなく一番大切なこととなります。先日のチャリティーマッチの際に、タイガー・ウッズの使用クラブの画像がネットにアップされていましたが、ジャーマンステンレス製のヘッドのフェース面に、1点の打痕がハッキリと残っていました。その打痕はまさに重心の位置です。これぞ、世界最高の選手が伝える、パッティングの極意だと感じました。

画像: つねに芯でヒットするのがタイガー・ウッズのパットの極意(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

つねに芯でヒットするのがタイガー・ウッズのパットの極意(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

インパクトの力学では、フェース面上の重心点よりトウ側に打点が外れると、ヘッドが右向き方向に回転し、逆にヒール側に外れると左向き方向に回転します。

これをショートパットに応用すると、スライスラインをトウ側で打つのと、フックラインをヒール側で打つのがNGとなります。

この打点に影響があるのがヘッド軌道です。フックラインのショートパットが苦手な人によく見られるのですが、引っかけたくない気持ちから、ヘッドをカップの右に向けて出していこうと意識して、
それによってヒール側にあたってしまい、結果、ボールはフェースの向きに対して左に出て、フックラインが下に外れるという組み合わせ。

画像: タイガーが使うパターの打痕。ややヒール寄りに見えるここが「芯」のようだ(撮影/岡沢裕行)

タイガーが使うパターの打痕。ややヒール寄りに見えるここが「芯」のようだ(撮影/岡沢裕行)

これでイップスになってしまったプロゴルファーも実在します。フックラインを引っかけたくなかったら、トウ側でインパクトすれば、いきなりカップの左にボールが出るような恐怖心からは逃れられます。

パターの場合、フェースがボールにコンタクトして、フェースから離れていく際のフェース面スクェアが重要なので、ややアウトサイドインの軌道で、フォローを引き込みながらフェースをスクエアに向けていく感覚は、意外とパット巧者に多い組み合わせかもしれません。しかし、アウトサイドイン軌道は、打点がトウ側にズレやすいのも事実。今回のモリカワのミスは、こんなことが起きてしまったのか? と推測できます。

スライスラインのショートパットが苦手な人は、ややヒール側というか、シャフトの延長線上で打つような意識をもってもらうといいと思います。

フェースバランスやセンターシャフトのパターもありますが、重心距離のあるタイプのパター(編注:主にヘッドのヒール寄りにネックがついているパター)の場合は、重心位置でコンタクトできても、インパクトの際にボールの重さでシャフトを軸にヘッドが開く方向に回転するチカラが加わるので、できるだけシャフト軸に近いところで当てたほうが、フェース面に対して右にボールが逃げていくような挙動はなくなると思います。

タイガーのように、芯に当てるのはパッティングの基本かつ極意ですが、一筋のラインをコントロールできずにショートパットを外してしまうゴルファーには、この打点による調整、試してみる価値があるでしょう。

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