昨年ツアールーキーながら全英女子オープン制覇という快挙を成し遂げ、賞金女王争いも繰り広げた渋野日向子。そんな彼女をサポートし、渋野を“しぶこ”と呼ぶコーチ・青木翔は「打ち方は教えない」が、「楽しさ」は教えるという。そしてもうひとつ、「身に付くまで教える」ことがあるというが……著書「打ち方は教えない」から、青木の指導法の一端を覗いてみよう。
考えても気づかないことは丁寧に教える
楽しさのほかにも、もう1つ教えることがあります。それはルールや常識という人として身につけるべき基本的なことです。
例えば、コーチや仲間への挨拶や、練習場、ゴルフ場でのお作法などはきっちりと教えます。
なぜならこれは放っておいても、できるようになるのが難しいからです。
ラウンド中に、これから打つグリーン上に人がいたら打ってはいけません。これは常識でありルール。
でも子どもたちは、それを教えてなければガンガン打っていってしまいます。「危ないからダメよ」と教えていても打ち込んでしまうくらいですから。
けが人が出てはじめて「いけないことだったんだ」と気づくかもしれませんが、そうなってからでは遅いので、ルールとしてしつけます。
あいさつも同じです。コミュニケーションの起点としてなくてはならないものですが、放っておいても子どもたち自身がその重要性に気づくのは難しいでしょう。
このように考えても気づきにくいことや危険なこと、周囲に迷惑がかかることは具体的なやり方まで教えます。
常識やルールは身に付くまで教える
そもそもルールや常識は、彼らの頭の中にまったくなかったことなので、1度のしつけでできるようになることはありません。根気強く何度も同じことを教えてあげてください。
しつけの項目は、なるべく絞っておいたほうがよいでしょう。教えすぎるときりがなく、つい本来は選手が考えるべき部分までを教えてしまいがちです。
またルールや常識は、技術レベルが高いからといって、習得できているというわけではありません。
だから能力が高いけれどあいさつができなかったりルールが守れなかったりしたら、できるようになるまでしつけなくてはなりません。
そうしないと「ただのゴルフがうまい人」になってしまいます。
そんな子がもし仮に、競技レベルのゴルフをやめたとき、何が遺るでしょうか。選手が社会に出たときに役立つものを遺してあげなければ、いくらゴルフの技術を教えるのが上手でも、それは優秀なコーチと言えないと思います。
コーチや上司というのは、親と違ってその人の人生で接することができる期間が限られています。だからこそ、関係が途絶えたあとに何が遺るのかを考えなくてはならないのです。
人として守らなければならないことは、しっかり教える。指導者はそこから逃げてはいけません。
「打ち方は教えない。」(ゴルフダイジェスト社)より