「(給料を払うのは)自分の責任であり、当たり前のこと」(渡邉)
新型コロナウイルスの影響で試合の中止が続く中、プロキャディなどトーナメント従事者の支援目的で、石川遼、有村智恵、青木瀬令奈が立ち上げたクラウドファンディングが話題だが、実は、いち早く個人的に契約するプロキャディに対し、この期間の金銭的サポートし続けたプロゴルファーがいる。
「アース・モンダミンカップ」で5年ぶりの復活優勝をした渡邉彩香だ。
大会数日後に、2017年から専属キャディとして渡邉彩香とタッグを組んでいる川口淳に優勝時の秘話などを聞いていたときに、出てきた話だった。
「コロナの影響で開幕戦の中止が発表され、その後も、立て続けに試合の中止が発表になった後も、(渡邉プロは)ずっと給料を払い続けてくれていたんですよ」と川口が漏らしたのである。
プロキャディが受け取る報酬は、基本的には、試合ごとの基本賃金と、その試合でのプロの成績に応じた成功報酬の合計が1試合当たりの給料となる。川口のように、シーズンを通して一人の選手の専属キャディであっても、年俸のような形で固定給が払われることはまずない。
もちろんキャディたちは、より多くの試合でバッグを担ぎ、その担いだ試合で選手が好成績を収めてくれるように共に戦いたいわけだが、今シーズンの前半戦はコロナ禍で試合の中止が続き収入のほとんどが絶たれる憂き目を見ることになる。
そんな状況の中にあって川口は、いち早く渡邉彩香から「試合はなくなっても、その期間の給料は払いますから」という連絡を受けていた。「そればかりか彼女は、僕が仲の良い5人のキャディ仲間のことまで心配していました」(川口)。
なぜいち早く、そういうアクションを起こしたのかを渡邉彩香に問うと、こんな答えが返ってきた。
「グッチさん(川口のニックネーム)にだって家庭があるわけだし。それに、年間でコンビを組むということは、そういう(不測の事態)ことも含めてのことなんだから、当たり前のことだと思っています」(渡邉)。
彼女が「そんなことは当たり前だ」と考える、そのベースにあったのは、川口との専属契約を結ぶ際に父親の光章さんから受けたこんな忠言だったという。
「私はシーズンを通して一人のキャディさんとコンビを組むのはグッチさんが初めてで、契約をするか迷っているときに、父から『家庭を持っている人と一年間一緒に仕事をするからには、それなりの責任が発生するのだから、その覚悟をもってやりなさい』と言われたんです。だから、契約をした期間のお給料を払うということは自分の責任であり、当たり前のことだと思っています」(渡邉)。
「此の親にして此の子あり」という言葉を、改めて思い起こさせるエピソードである。
文/古屋雅章