デシャンボーがコブラの「キング スピードゾーン」のロフトを驚きの“5.5度”設定にして驚異的飛距離を叩き出し、世間の注目を集めたが、最近ではトニー・フィナウもピンの「G410プラス」の表示ロフト8度のヘッドのロフトを7.25度にして飛距離アップに成功、採用には至らなかったようだが6度未満のものもテストしたという報道もある。また、ロリー・マキロイは8.5度のSIM MAXのヘッドを8度に調整して使っている。
この現象を、PGAツアーのギア事情に詳しいゴルフトレンドウォッチャー・コヤマカズヒロはこう分析する。
「昔はプロは低ロフトでしたよね。タイガー・ウッズもデビュー当時は表示ロフト6.5度のタイトリスト『975D』を使っていました(現在は表示ロフト9度の『SIM』を使用)。近年はクラブの性能が良くなり、同じロフトでもより低スピンになるドライバーが増えてきました。だから、ロフトを増やす選手が増えたんです。入射角もレベルに打つ選手が多い、それが現在の主流です」
ボールもドライバーも高スピンだったため、それを減らすためにかつてプロたちはロフトの立ったドライバーを使用していた。それが、ヘッドもボールも低スピン化し、それに伴ってヘッドを上からではなくレベルに入れる技術が一般化することで、プロにとってロフトが立っている必要がなくなったというわけだ。
ではデシャンボーはなぜ超低ロフトドライバーを使うのか。
「あれだけのパワーがあると既存のクラブではなにを打ってもスピン過多になるでしょう。スピンが多くなるといわゆる吹け上がりになり、ボールが前に行かず、せっかくのパワーが生かせません。そこでロフト角を減らしてアッパー軌道に打ち、フェースの上目に当ててとにかくスピンを減らしているのだと思います」(コヤマ)
プロにとっても十分に低スピンになってきた現代のギア。それでもスピン過多になってしまうようなありあまるパワーを持つプロたちが、低スピンヘッドに手を伸ばしているようだ。
稲見萌寧らを教えるプロコーチの奥嶋誠昭は、シャフトの影響もあるという。
「デシャンボーのシャフトはLAゴルフというメーカーが作っていて、真ん中が硬く手元と先がゆるい逆ヌンチャク型だといいます。そのようなシャフトはおそらく先(シャフトの先端よりの部分)が走るので、インパクトでロフトが増えてしまうので、5.5度でもよかったのだと思います」
圧倒的な肉体に加えてシャフトのしなり、インパクトの打点などテクニックや理論も駆使して飛ばすデシャンボーに対し、フィナウは「純粋にスピードとパワーで飛ばしている」と奥嶋は分析する。
「フィナウはもともと飛距離があるので、飛距離のアドバンテージを感じていたと思いますが、デシャンボーが覚醒したことで、さらに飛距離を求めた(低ロフトの)セッティングを試しているのだと思います。PGAツアーでは飛距離は絶対。たとえラフに入っても、ショートアイアンで打てれば有利ですから」(奥嶋)
デシャンボー、フィナウ、マキロイ……彼らは鍛え上げられた肉体を武器に、低スピンドライバーのロフトを立ててさらに低スピンにし、あくなき飛距離を求めている。と同時に彼らが使うのはキング スピードゾーン、G410プラス、SIM MAXと、“やさしさ”も併せ持つヘッド。
ゴリゴリのプロモデルではなく、やさしさもあるヘッドを低ロフトにしているのも、今の時代の特徴かもしれない。ヘッドが曲がらないのを背景に、思い切り叩いて350ヤードを超えるような飛距離で戦う、異次元の領域に突入しつつあるようだ。