国内女子ツアー、今季2戦目の「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」では、昨年プロ入りしたばかりの19歳、笹生優花(フィリピン)が2位の若林舞衣子、藤田さいきに4打差をつけ16アンダーでツアー初優勝を飾った。

本気で“世界一”を目指すことのできる逸材がまず一勝

「けっこう緊張する方なんですが、自分のプレーに集中するようにしました。まだ実感はありませんが、優勝できてすごく嬉しいです」

彼女の最終日のスコアは、1イーグル、7バーディ、ノーボギーの63。憧れのプロはローリー・マキロイだというが、まるでマキロイのような爆発力だ。しかも飛距離が半端ない。16番ホール・パー5ではドライバーショットをフォローの風に乗せて、残り195ヤード地点まで運び、2打目をピン手前約1メートルに2オンさせて、イーグル。

本人は「平均飛距離は250~260ヤードくらい」と謙遜気味にいうが、今大会中も300ヤードに届くドライバーショットを打っており、「風向きや条件によってはもっと飛ぶ」という男性並みの豪打は笹生の何よりも大きな魅力だ。環境も違うので、単純に比較はできないが、米女子ツアーの平均飛距離ランキングではマリア・ファッシが約292ヤードで1位、今年プロ入りした同じくフィリピン国籍のビアンカ・パグダンガンナンは289ヤードで2位である。今の笹生が米ツアーで戦ってもおそらくトップ10に入る可能性は十分ある。

そんな飛距離を叩き出せる土台を作り上げたのは、父・正和さんの指導によるところが大きい。フィリピン生まれで5歳から8歳までを日本で過ごした彼女だが、日本にやってきて、まだ日本語も理解できず友達があまりいなかった頃に、正和さんの練習についていったのが、ゴルフに触れるきっかけだった。小1の時に実際ボールを打ってみたところ、最初からうまく当たり筋がよかったのだと言う。「宮里藍やポーラ・クリーマーのようになりたい」と笹生は言い、「本気でやるならしっかりトレーニングをしなければダメだ」と正和さんが伝えると、「わかった、やる!」ということで笹生は本気でプロゴルファーを目指し始めた。小3でフィリピンに移住したのも、プロゴルファーになるためである。

正和さんは笹生に「下半身の強化」と「柔軟性」を叩き込んだ。早朝5時に起床し、30分のランニングやダッシュ、バット素振り、バスケットボール、ゴロキャッチなどを行う毎日。しかも両足には2キロずつ、合計4キロの錘をつけての足腰強化トレーニングである。これを幼少の頃から毎日続けてきた結果、300ヤード級の飛距離とどんなにハードヒットしてもブレない方向性を生み出すことができたのだ。ティーチングプロではないが、シングルハンデの正和さんの指導法が正しかったことが証明されたと言っていいだろう。

彼女の下半身の強さには、あのジャンボ尾崎も舌を巻いたほどだそうで、プロ入り後に初めてジャンボ邸を訪れ、スウィングを見てもらった時に、ジャンボから「どうやってこの下半身を作り上げたんだ?」と正和さんはその指導法をいろいろと質問されたと言う。「1ヤードでも前に飛ばしたい」と常々語っていたジャンボが、彼女のスウィングと飛距離に一目惚れしたのが本当のところだろう。ちなみに彼は笹生に愛用のドライバーをプレゼントしている。8月初旬に行われた女子チャリティトーナメントでも使用していたが、今週のドライバーにもセブンドリーマーズのシャフトが装着されていたので、おそらくジャンボから譲り受けたドライバーで戦っていたものと思われる。男性のドライバーをあれだけ振り回し、300ヤード級の飛距離を叩きだせるのだから、普通の女子プロではない。

ジャンボ邸では、ジャンボが認めた選手だけが練習することを許されているが、笹生はジャンボの長男でありプロゴルファーの尾崎智春氏(現在はマネージャー業に転身)に声をかけられ、プロ入り後、1度訪れたのだと言う。その時、ジャンボからは「1発合格」をもらい、以後、時々ジャンボの練習場に通うようになった。よく“ジャンボが師匠”とか“笹生はジャンボの愛弟子”と言われているが、笹生本人の話によれば、さほどたくさんのことを教えてもらっているわけでもなく、時々練習場を使わせてもらい、ジャンボのいる時に少しアドバイスを受けるくらいなのだそうだ。しかも今年はコロナウイルス感染の影響で自粛時間も長かったため、あまりジャンボ邸には行けていないのだと言う。だから本当の意味での師匠は、やはり父の正和さんなのだ。

「最近はお父さんからは気持ちの面でのアドバイスが多いですね」

正和さんは親しみやすく、おしゃべり好き。そんな社交的な性格も、笹生にはプラスに働いているに違いない。相手が誰でも、どんな国籍の人間でもフレンドリーに接し、決して動じることはないからだ。

画像: 今大会で初優勝を挙げた笹生優花(写真は2020年のNEC軽井沢72ゴルフトーナメント 代表撮影/岡沢裕行)

今大会で初優勝を挙げた笹生優花(写真は2020年のNEC軽井沢72ゴルフトーナメント 代表撮影/岡沢裕行)

現在はフィリピンと日本の二重国籍だが、来年の東京オリンピックにはフィリピン代表で出場し、その後22歳の誕生日までに日本国籍を選ぶことになっていると言う。日本語、英語、タガログ語を流暢に話すが、韓国語やタイ語も少し話せるという。

「日本語よりも英語のほうが話しやすいです。日本語のインタビューでは、ときどき意味がわからなくて言葉に詰まることもありますよ(苦笑)」

と笹生。日本人選手にありがちな「言葉の壁」は一切ないし、過去アマチュア時代に世界16カ国以上でプレーしてきた経験値も大きい。「オーガスタ女子アマ3位タイ」「アジア大会金メダル」などアマチュア時代の活躍ぶりも文句なしだ。飛距離も爆発力も型破りなスーパールーキーの目標は「世界一」。父の課すトレーニングは子供にはかなりの苦行だったと想像するが、そんな苦行にも愚痴一つ言わずに取り組んできたのは、ただ「世界一」を目指すためだ。

ミニスカートも履かず、化粧もしない。キュートで華やかな今どきの女子プロとは一線を画し、「女性」を前面に出さない笹生は、本気でロリー・マキロイのような世界の男子プロ並みのスウィングと飛距離、世界一のゴルフを目指している。一見男の子のようだが、言葉を発した瞬間、かわいらしい高めの声とあどけないキュートな笑顔が魅力でもある。将来、アメリカでプレーするのが夢だが、その夢に向かって、まずは1勝、国内のビッグイベントで華々しいデビューを飾った。ジャンボからも以下のようなお祝いの言葉が寄せられた。

「パワーとスピードを兼ね備えた体を作り上げた本人の努力以外になし。アメリカでトップを目指したいと言っていたが、少し見えてきたんじゃないかな? まずは1勝、よかった!」

世界の選手と戦っても決して引けを取らない選手が、日本の女子プロゴルフ界に誕生した。彼女の今後の活躍が非常に楽しみだ。

 

画像: 世界の注目株!笹生優花の飛距離を支えるトレーニングに密着 youtu.be

世界の注目株!笹生優花の飛距離を支えるトレーニングに密着

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