同一セット内コンビネーションが進んでいた国産名器アイアン
久しぶりに国産プロモデルの名器と言われる『ジャンボMTN III』を構えてみると、なかなかクセのある“顔”をしているな、と改めて思ったりする。7番アイアンはさほどでもないが、8番になると急に違和感(個人的には)をおぼえるのである。それは急にオフセットが強くなるからだろう。
『ジャンボMTN III』は、意図的に7番と8番のヘッド形状を変えていることで有名だ。8番から下はまさに点で狙っていく番手のため、オフセットの強いサンドウェッジの形状を踏襲。7番より上はロングアイアンベースの形状フローになっているわけである。『ジャンボMTNIII』はまさに時代を先取り! 現在、米ツアーで主流のコンビネーションアイアンセットのような、各番手の役割を明確にしたアイアンだったのである。
同じく国産プロモデルの名器と呼ばれる『TN-87』になると、さらにロング、ミドル、ショートで明確に顔つきが違ってくる。それは顔つきを決めるF.P.(フェースプログレッション)の設定が極めて独創的だからである。
『TN-87』はロングアイアンほど“出っ歯”方向の顔になっている珍しいモデルだった(通常はロングアイアンほどグース)。今のようにコンビネーションセットという考え方がなく、とにかくロングアイアンからのフロー(流れ)を重視した設計が普通だった80年代に、ウェッジにスムーズにつながるショートアイアン(MTN III)、FWにつながりやすそうな出っ歯のロングアイアン(TN-87)を発想できたのは、ひとえにそれがスター選手専用のパーソナルモデルだったからだろう。選手がボールを打ちながら決めた、つながり感が備わっていたのである。
その証拠に、TN-87(米国ではMP-29)のロングアイアンはデビュー期のタイガー・ウッズがわざわざコンビネーションして使っていたほど。ここに目をつけたウッズはさすがと言わざるを得ないが、そもそもオフセットの少ないロングアイアンを作らせた中嶋の感性がすごいのである。
グースウェッジ人気が下火になった今、7番と8番の境界線がなくなりつつある
さて、ここからは現在のアイアン(主にマッスルバック)の形状フローについて見ていきたい。写真1に最新MBアイアンの7番と8番を並べてみたが、さほど強い個性を感じさせるモデルがないことに気づくだろう。だいたいフェースのヒール側が低めでトウが高い。『ジャンボMTN III』のようにネックとトップブレードのつながり部分が強く鍵型になっているモデルはゼロである。
これは現在のアイアンが、グースウェッジではなく、ティアドロップ型ウェッジへのつながりを考えて作られているからだ。クリーブランド、ボーケイデザインが確立したF.P.の大きい出っ歯なアメリカンウェッジに慣れ親しんだプレーヤーが好む、アイアンの形状フローに今のマッスルバックアイアンはなっているのである。
ちなみに、『ジャンボMTN III』(#7)のF.P.値は2.8ミリ。最新のタイトリスト『620MB』は5.5ミリ、ピンの『ブループリント』は5.7ミリである。面白いのは国産の最新マッスル『TOUR B 200MB』(ブリヂストンスポーツ)のF.P.が4.3ミリだったこと。ほんの少し海外ブランドよりも“ヒールのふところ”を感じさせるオフセット設定。ここにグースウェッジで育った日本のベテランプレーヤー、上級者への配慮が感じられるのである。※紹介したF.P.値は編集部調べです。
アイアン選びの際に、飛距離や安定性など「打球結果」を気にするのは当然のことだが、もう一つの視点として、ウェッジとの「つながり」、FWやUTとの「つながり」についても関心を持っていただけたらと思う。その鍵を握っているのがF.P.の設定。アイアンと他のアイテムとの境界線を「フェースの出具合」に着目してうまく馴染ませていく。それがクラブセッティング(つながり)のポイントのように思う。
最後に、最新マッスルバックの7番を並べてみた(写真2)。さて、あなたの好きな“顔”はどれだろうか!?