「もうフィニッシュじゃないじゃん」っていうくらい振る!
肉体改造の結果、もとは90キロ台だった体重を約111キロまで増量し飛距離を大幅アップ。ついに海外メジャー初制覇を成し遂げたブライソン・デシャンボー。スウィングに関しても「肉体改造前と後では変わっています」とプロゴルファー・堀口宜篤は言う。
「もともとデシャンボーは左一軸のワンピースで振る……要は機械的な動きをする選手でしたが、最新スウィングでは、エネルギーを生み出すために体をバランス良く使うようになってきたなと思います。まずデシャンボーは写真A左のように、アドレス時にハンドアップで構えています。手首が返りづらい形をあらかじめ作ることで、スウィング中にトウダウンが起きないように抑えているんです」(堀口、以下同)
写真Aはすでに肉体改造の成果が見える2020年のWGCメキシコ選手権時(2月)のものだが、ここからもうひとまわり大きくなった最新のスウィングでは「もっとわきを締めてより手首が返らない状態を作っています」と堀口。
加えて、ハンドアップはフェースが右を向きやすい、つまりスライスが出やすい構えでもあることさえ、「左へのミスがないような構え方を作っておくことで、肉体改造によって獲得したパワーを活かしたマン振りができるわけです」と堀口は指摘する。
続いてバックスウィングでは、重心を左サイドに残したまま上半身を深く捻転させ、スウィングアークを大きく取ってクラブを上げていく。ここも大筋の動きは以前と大きくは変わらないが、確かな変化も見られるという。
「以前はバーティカル(縦方向への)な動きを大きく使って1ピースで振っていましたが、現在はラテラル(横方向への)な動きも少し入っていて、トルク(回転)の量も増えています。デシャンボーは自分の体の動きをデータとして分析しながらスウィングを作っているでしょうから、今まで足りなかった部分、ラテラルな動きとトルク量を増やすために肉体改造を行った、という側面もあるでしょうね」
そして、切り返しからダウンスウィングにかけてのエネルギーの出力の仕方も少し変わってきていると堀口。
「切り返しからダウンスウィングにかけては、上半身を残したまま、下半身だけが踏み込んでいきます。さらに上半身を飛球線後方に傾けることで、トルク量がさらに増え、よりアッパー軌道でボールを捉えることができ、高弾道を実現しています」
ダウンスウィング中の横への動きは前述した切り返しの踏み込む一瞬の動きだけで終了。上半身を傾ける動きもハーフウェイダウンまでの段階で終了し、あとは縦方向の動きによって生まれたエネルギーを活かしてリリースしていくだけ。ここで注目してほしいのが「インパクトからフィニッシュでの左足です」と堀口。
「左足のめくれ具合、半端じゃないです(笑)。プロの場合、マン振りと言っても100%の力加減では振っていない、なんてこともありますが、これはどう見ても抑えて振っていない。完全なマン振りですね。この写真はWGCメキシコ選手権のものですが、これでもキレイにバランス良く振っているほうですよ。左足のめくれ具合もそうですが、とくに全米オープンでのフィニッシュを見ると、『もうフィニッシュじゃないじゃん』みたいな形になっていますから」
とはいえ、これだけマン振りしてもデシャンボーの球は大きく曲がっているようには見えなかった。その要因は、やはり「肉体」ということになる。
「もちろんこれは、その動きに見合う肉体がなければ実現できない動きです。そして、獲得した飛距離のアドバンテージで『ドライバーで飛ばして、残りはウェッジで良いでしょ?』というプレースタイルを貫き結果を出したのは、それこそタイガー・ウッズが出てきたときと同じくらいの大きな衝撃・変化ですよ」
肉体改造によってさらに理想のスウィングに近づき、結果を出したデシャンボー。次は「48インチのドライバーをテストします」という本人が話す通り、まだまだ飛距離アップのための研究は続きそうだ。