新型コロナウイルスの影響を受け、7ヶ月遅れで開催された今年の「マスターズ」は、いろいろな意味で普段とは異なる大会となった。ここでは改めてその相違点を選手たちのコメントをピックアップしながら振り返ってみたい。

【1】日照時間の短い11月に開催

通常、4月に開催される場合の大会期間中の平均日照時間は、12時間53分。しかし今回の11月開催での平均日照時間は10時間27分と約2時間40分ほど短縮となった。そのため、例年であれば予選ラウンドの木・金曜日も1番ティからスタートするのが常だが、今年は1番、10番の2ティでスタートすることで時間短縮。予選カットが実行されたあとの決勝ラウンド中も2ティ使用は変わらなかった。

画像: 前代未聞だらけのマスターズで20アンダーと大会最少ストローク記録で制したダスティン・ジョンソン(写真/2020 Masters Tournament)

前代未聞だらけのマスターズで20アンダーと大会最少ストローク記録で制したダスティン・ジョンソン(写真/2020 Masters Tournament)

また、今年は最終日の東部時間午後4時から、マスターズ中継局のCBSはNFLの中継もあるため、4時前にマスターズ中継を終わらせなければならないというテレビ局側の都合もあり、早々に終了。日本では普段、午前8時ごろまで放映しているマスターズの最終日。だが、今年の最終日の中継は午前6時には終了していたため、うっかり見逃してしまった人もいるかもしれない。

【2】紅葉するオーガスタ

4月には美しいツツジやハナミズキが咲き乱れることで知られるオーガスタだが、今大会はその代わりに紅葉が見られた。また、芝もところどころ茶色くなっているところもあり、晩秋のオーガスタらしい景色をテレビで感じた人も多いだろう。また、これは現地にいないと感じられないが、デシャンボーは「とても湿気を感じる」と湿度の違いにも言及していた。

【3】無観客での開催

マスターズでは観客のことを「パトロン」と呼ぶが、今年は「パトロン」を入れずにスタッフや関係者、ファミリー、一部メディアのみが現地入りが許され開催された。タイガー・ウッズを始め、多くの選手たちが彼らの不在を寂しく思い、「雰囲気が全然違う」(アダム・スコット)

「彼らがいなくて寂しい。彼らが立てる騒音やとどろきがない」(ローリー・マキロイ)

「他のホールからの歓声もないし、パッティンググリーンから1番ティに向かうところでの歓声や拍手もない。13番でイーグル、なんていう時の歓声も聞こえない。本当は観客たちがこのトーナメントの全てなのに、今年はそれがない。エネルギーが足りない」(タイガー・ウッズ)

画像: パトロンがいないことについて「彼らがいなくて寂しい」とマキロイは話していた(写真/2020 Masters Tournament)

パトロンがいないことについて「彼らがいなくて寂しい」とマキロイは話していた(写真/2020 Masters Tournament)

と口々に語っていたが、逆に観客がいないことでメリットもあったようだ。

「通常パトロンがいるラインに対して打っていける。例えば13番では通常人がいる14番の方に向かって打っていくこともできる」(ブライソン・デシャンボー)

「パトロンがいないから、もっと広くコースを使える」(フィル・ミケルソン)

画像: ブライソン・デシャンボーはパトロンがいないからこその戦略法を練っていた(写真/2020 Masters Tournament)

ブライソン・デシャンボーはパトロンがいないからこその戦略法を練っていた(写真/2020 Masters Tournament)

「パトロンはいた方がワクワクするけど、今日はファンがいない方がプレーは楽だったかも」(ダスティン・ジョンソン)

パトロンが入ると、ホールの両サイドに二重、三重と人の列ができるため、くっきりと狙いが定められる。そのぶん精度の高いショットが求められ、精神的な圧迫感を感じるのが通常のマスターズなのだが、今年のように人がいないとスペースがある分、精神的な余裕も生まれ、普段は考えないような攻め方も可能だったようだ。

【4】芝・コースコンディションの違いと攻め方の違い

通常、春先のマスターズではオーバーシードされているが、今回はバミューダ芝がコース全体、特にグリーン周りにたくさん生え残っており、ところどころライグラスも生えていたという。

「ボールが沈みやすく、グリーン手前から転がし寄せるか、もっとスピンをかけて止めるかの能力が試されるだろう」(タイガー・ウッズ)

「今年、スコアが伸びているのはグリーンがソフトだということと、バミューダ芝がまだ生えているということがある。バミューダだとグリーンでとても止まりやすい。4月ならボールがハネてパトロンの方に行ってしまうところが、今週はアプローチショットがすぐに止まってくれる。だからアグレッシブに攻められる。グリーンも遅めだが、これは雨のせいだけじゃない。バミューダだからだ」(ポール・ケイシー)

画像: 4月から11月に開催月が変更になったことでコースセッティングが大きく変化していることを予測していたタイガー・ウッズ(写真/2020 Masters Tournament)

4月から11月に開催月が変更になったことでコースセッティングが大きく変化していることを予測していたタイガー・ウッズ(写真/2020 Masters Tournament)

春先のマスターズではグリーンが硬く、高速のため、今回のコースセッティングとはまったく異なっている。そのため、普段よりも積極的にピンを狙っていかないとスコアを伸ばすことができなかった。「オーガスタは知識や経験がモノを言うコース」というのが定説だが、今年のマスターズは、逆にこれらの知識が邪魔になったと言えるだろう。ジャスティン・トーマスは

「今週は過去の知識を全て忘れなければいけない。そう言うものがかえって邪魔になる。普段はグリーンに乗っても転がり出ることが多いけど、今年はグリーンに乗せれば球は止まると言うことがわかったよ」と語っている。

成績表を見れば、キャメロン・スミスやイム・ソンジェ、CT・パン、ディラン・フリッテリら、初出場から2〜3回目の出場という選手たちが上位を占めていたが、これは単に彼らの調子が良かったというだけではないのかもしれない。オーガスタについての知識や経験が浅い分だけ、先入観なくコースを攻められたと利点があったのではないかと推測する。

だが、5ヶ月先の例年通りのマスターズでは、今年の攻め方は通用しない。今回のグリーンや攻め方にすっかり慣れてしまった人も、本来の硬くてハネやすいグリーン、止まらないグリーンを攻略できるよう、柔軟な想像力、対応力が求められる。 

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