ケプカにとって「飛ばしたい距離を安心して打てるクラブ」
かつてクラブ契約を結んでいたナイキゴルフがゴルフクラブ事業から撤退して以来、契約フリーを貫いているブルックス・ケプカ。以降、自分が気に入った14本のクラブで海外メジャー4勝を含む輝かしい功績を手にしてきたわけなのだが、当然バッグの中身も各メーカーのニューモデル登場に合わせてアップデートを繰り返している。
2021年に入ってからは、それまで愛用していたミズノのJPX919ツアーからダンロップのスリクソンZX7にスイッチ(4番~PW)が話題に。
ドライバーに関しても同様だ。1年半振りの優勝を勝ち取った今年の「フェニックスオープン」では、テーラーメイドのM5から同社のSIM2にスイッチしている。
最新モデルから過去モデルまでメーカー問わず臨機応変に入れ替えていくのは契約フリーらしい対応だが、一方でケプカのセッティングには“古株”も存在する。それがナイキ「ヴェイパーフライプロ」アイアンの3番だ。
ヴェイパーフライプロは2016年から採用され、昨年は一時期テーラーメイド「P790UDI」に替えたものの、結局元の鞘に収まっている。ではヴェイパーフライプロとはそもそもどんなクラブなのだろうか。ギアに詳しいプロゴルファー・堀口宜篤はこう評する。
「『プロ』とモデル名に付いていますが少し厚めなデザインで、2番からPWまでラインナップされていますが、番手ごとに構造が異なります。このうちケプカが使用する3番は、ロフトが19度で中空構造。アスリート好みの難しいクラブではなく、やさしく打てるユーティリティアイアン的な性能なんです。ヘッドがシルバーでなく黒色なのもポイント。そのおかげで厚みがあっても締まったコンパクトな形状に見えるのが良い点ですね」(堀口)
たしかに昨年の一時期ヴェイパーフライプロの代わりにバッグインしたP790UDIも、ケプカが4番より上に採用しているZX7のようなアスリート好みのシャープな顔ではなく、やさしく飛ばせる形状だ。
ただ、結局ヴェイパーフライプロに戻ってくるあたりよほどお気に入りの様子。堀口はケプカがヴェイパーフライプロを長年愛用する理由をこう推測する。
「もちろんヴェイパーフライプロより飛ぶクラブはたくさんあります。でもケプカは3番アイアンに距離を必要としていない。どちらかというと打ちたい距離を正確に、そしてやさしく打てる性能を求めているんだと思います。それを満たしているのがヴェイパーフライプロというわけです」(堀口)
堀口はヴェイパーフライプロだけでなく、3番ウッドもテーラーメイドのM2ツアーの16.5度モデルも長く愛用していることを挙げ、「プロってドライバーは飛距離性能が上がりミスショットの可能性が減ればお得ですからフィーリングさえ合えば替えますが、その他のクラブは『飛ばしたい距離をやさしく飛ばしたい』のだと思います」(堀口)
ただやさしいだけでも、いたずらに飛んでしまうのもダメ。ケプカにとって打ちたい飛距離をピタリと打てるのがヴェイパーフライプロ、そしてM2ツアーであり、中々眼鏡にかなうクラブが見つからないのではないかと堀口。
「ここまで長年の付き合いなのであれば、おそらく飛距離の階段もM2ツアー、ヴェイパーフライプロが基準となっているでしょうね。それくらい、ケプカにとって重要なクラブと言えます。加えて、長年使用を続けてきたことで、構えた時に感じる安心感も1年程度の付き合いのクラブとはまったく違うと思います。それも替えが利かない理由の一端になっているのではないでしょうか」(堀口)
こういった“長年使い続けてきたクラブへの信頼”というのは、当然プロアマ問わず。「見慣れたメンタル面にもプラスの効果があると思いますよ」と堀口。もしお気に入りの1本があるゴルファーは、ケプカを見習ってみるのもアリ!?