先日ある20歳前後の女性ゴルファーの方(以下A選手)から体験メンタルトレーニングの依頼があり実践しました。その体験の中で、心理面の課題のヒアリングをしているときにA選手が挙げた課題は次のようなもの。
「コーチからアスリートとしての貪欲さが足りないと言われたのですがどうすればいいですか? 私はストイックにゴルフをするより楽しんでゴルフをするほうがパフォーマンスも高い気がしているのですが……。コーチからはライバルを蹴落とす気持ちも大事だと言われます」(A選手)
いかがでしょうか? あなたはこの問いに対しどう考えますか? もしかすると記事を読んでいる方の中にも、自分よりレベルの高いゴルファーに「ここから上に行くには貪欲さ(ストイックさ)が大事だよ」などと言われたことがあるかもしれません。
A選手に対する私の返答はこうでした。「どちらでもいい」です。続けて「貪欲にストイックに練習することで成長や成果に繋げる人もいれば、楽しんで競技を追求した後にそれが成長や成果に繋がる人もいます。人が何を優先して考えるかという価値観は人により違います。ですので、何に対してA選手が動機づけすることができるのかが分かれば答えは出ます」とも伝えました。
今回のケース、A選手のコーチはお話を聞く限り、「権力動機」や「回避動機」が優位にあるタイプのように見受けられました。
権力動機とは「他者に影響力を示したい、自分の力を他者に証明したい」というモチベーションのこと。回避動機は「失敗を避けたい、誰かに負けたくない」という痛みを回避するモチベーションのことを言います。
このような考えをモチベーションにしているであろうA選手のコーチは、A選手に対してライバルを蹴落としてでも上に行く気持ちが足りないと捉え、「貪欲にストイックにもっとやるべき」と自分の価値観を表した言葉を使っていたのでしょう。
しかし、A選手は私のヒアリングを通じてコーチの動機とはまったく違い、「達成動機」や「親和動機」が優位な傾向が見受けられました。
達成動機は「もっと競技を楽しみたい、もっと上達して上のレベルでプレーしたい」というような内発的に出てくるスポーツ心理学でもっとも推奨されるモチベーション。さらに親和動機とは「誰かに貢献したい、恩返ししたい」という人の助けになりたいというモチベーションです。
つまり動機がまるで違うからコーチの「貪欲にストイックに」という言葉はA選手に響かないんです。そればかりか、自分が動機づけできない対象にエネルギーを向けることで逆にパフォーマンス低下することにもつながります。
人は十人十色でモチベーションの矛先も違うものです。こういった知識は、ゴルフコーチの方やジュニアゴルファーの親御さんも知っておくと普段の声掛けに活かせるはずです。
ちなみに今回のケースで、A選手のモチベーションを引き出すために私が行ったコーチングは「数年後にどんな選手になりたいのか? そして誰に恩返しをできていると良いのか? そのためにどんなレベルアップができればいいのか?」という未来のビジョンメイキングと、そこに到達するための成長目標を考えることでした。
その達成動機や親和動機を明確に言語化しイメージできるようにすることでA選手は「そうか、私はより自分がゴルフを楽しめている未来を想像して、そこに行くためにどんなレベルアップをしたいのかを常に明確にしておくといいわけですね。これでモチベーションが高く保てそうです」と感想を言ってくれていました。
また、一度このようにモチベーションが高まっても、また日常に戻り目の前の練習やラウンドに忙しくなると、自分がなんのためにゴルフをやっているのか、目的を見失いがちですので、A選手には毎週初めに「今週のモチベーション」という項目で自分のモチベーションをノートに書き出すというワークを提案し、自分のモチベーションをフォローアップの習慣をスタートしてもらっています。
今回は人による動機の違いについて書いていきました。自身や他者のモチベーションマネジメントに活かしてもらえれば幸いです。