「これこそファンたちが見たいと思うもの」攻めのゴルフで勝利
「アーノルド・パーマー招待」は、ブライソン・デシャンボーが、リー・ウエストウッドに1打差で優勝。2020年「全米オープン」以来、今季2勝目、ツアー通算8勝目を挙げた。この優勝により、フェデックスカップランキングでは今季2回目の1位となり、世界ランキングは6位に浮上した。
「パーマーさんの試合で優勝できるなんて、夢のまた夢だった。アマチュア時代に招待されてこのコースに来て以来、すぐにこのコースが大好きになったし、雰囲気やギャラリーも大好きだ。パーマーさんがこの地でやってきたこと、そしてこの地で彼が残したものも素晴らしい。だからこの試合で優勝できて最高な気分だよ」
アーノルド・パーマーは生前、果敢に攻めるプレーで世界のゴルフファンを魅了した。時には積極的な攻めが仇となり、大トラブルに巻き込まれることもあったが、そこからなんとかピンチを脱し、数々のトーナメント優勝を飾ってきたのである。もっと大人しく、保守的なプレーをしていれば、もっと優勝できたかもしれないが、パーマーは「ファンの目の前で、ファンを楽しませるようなショットをいかに見せるか」ということも大事にしていた。だからこそ、記録上はジャック・ニクラスのそれには及ばなかったが、世界中の人からゴルフのヒーローとしていつまでも愛されているのだ。
そんなパーマーを敬愛してやまないデシャンボーもまた、パーマーのように果敢な攻めを見せ、ファンを沸かせるパフォーマーだ。
優勝争いも見応えがあったが、連日注目を集めていたのは、ベイヒルクラブ&ロッジの名物ホールの6番ホール(パー5・約560ヤード)。巨大な池の周りをぐるりと半周する、左ドッグレッグホールでおなじみのホールで、昔から飛ばし屋たちが果敢にグリーンを狙うなど、話題の多いパー5なのだが、デシャンボーは3日目、グリーン右サイドを狙い、見事池越え成功。370ヤード(残り70ヤード)の地点までぶっ飛ばし、大勢のギャラリーの前でガッツポーズを繰り出した。また、最終日も同様、果敢に攻め、376ヤードを記録。両日ともイーグルとはならなかったが、確実にバーディを決めた。
「まるで試合で優勝したような気分だったよ。水しぶきが上がることなく、池をクリアできたのを見て、鳥肌が立った。これこそファンたちが見たいと思うもの。成功できて楽しかったよ」
彼は、ギャラリーがいてもいなくても、このスリリングなショットをやっただろうと語るが、ギャラリーがいればさらにギャラリーを喜ばしたい、楽しませたいという気持ちに駆り立てられるという。ギャラリーの中には「(ビッグドライブを放つには)リブアイか何かを食べた方がいいよ」などとジョークを飛ばす者もいたそうだが、デシャンボーは「俺はフィレのほうが好きだね」などと返し、笑いを誘っていたという。
こうしたやりとりも果敢な攻めも、すべて「パーマー流」。学生時代、パーマーのオフィスを訪れ、一緒に記念写真を撮ったこともあったというが、パーマーに初めて会って以来ずっと彼の影響を受け続け、パーマーのようになりたいと、尊敬し続けているという。
「サム・サンダース(パーマーの孫で、PGAツアープレーヤー)が僕に“君がやっていることはパーマーさんもたぶん好きだと思うよ”と言ってくれたことがあって、すごく嬉しかったんだ。6番ホールの出来事などもその一つだろうね」
最終日の朝、もう1人の敬愛するヒーローから激励のメッセージをもらった。今大会で過去8勝を挙げ、交通事故で現在入院中のタイガー・ウッズだ。デシャンボーは、交通事故に遭い、自身が大変な時に自分を思い出してくれたことにとてもビックリしたと語っている。そのメッセージについては「すごく個人的なやりとりなので……」と多くは語らなかったが、「何度ノックダウンしたか、ということではなく、何度苦難を乗り越え、前に進むことができたかがいかに大事であるか」を2人で語り合っていたという。
そしてデシャンボーは、タイガーに次のように返信した。
「前に進み続けてください。あなたなら乗り越えられますよ。僕が出会った人の中でもあなたは最も一生懸命やる人だし、すごく頑張る人ですからね」
今大会の優勝者には、パーマーが生前愛用していた赤いアルパカ製のカーディガンが贈られるが、「この赤いカーディガンはパーマーさんだけのものではない。タイガーのためのものでもある」とデシャンボー。赤シャツに黒パンツスタイルでプレーすることで、タイガーへの激励を示す選手もいる一方、彼は「パーマーレッド」を着用することで、パストチャンピオンでもあるタイガーにエールを送った。