オーガスタナショナルGCは今週5カ月ぶりに選ばれし精鋭を集めマスターズの舞台となる。異例の11月開催となった昨秋に比べグリーンとフェアウェイは硬さを増し、ナイスショットを打っても球が転がって思わぬ結果を生むセッティングとなっている。
ディフェンディングチャンピオンのダスティン・ジョンソンは“果報は寝て待て”とばかり前週のテキサス オープンをスキップし本番に臨むがそのテキサスで優勝を飾ったのがスピースだ。
2017年の全英オープン以降勝星から遠ざかっていたスピースは2021年に入って復調の兆しを見せていた。春先のウェイストマネジメントフェニックスオープンとAT&Tペブルビーチプロアマで3日目を終えて首位に立ち、結果逆転されたものの4位タイ、3位タイとトップ5入り。
ライバルたちは「いまにスピースがくる。勝ち始めたら止まらない。不可能を可能にする男、それがスピース」(ダニエル・バーガー)と警戒感を強めていた。
そして迎えた地元テキサスの試合で3日目首位に立つと最終日も伸ばし合いの展開のなか今度は追いすがるチャーリー・ホフマンを振り切りしっかり勝利をものにした。
「こうして(優勝)インタビューを受ける日が来るなんて想像もできなかった。一時は本当に出口が見えないトンネルのなかにいた。でも今日は深刻にならず軽い気持ちで楽しもうと思ったのが良かった」と声を弾ませた。
タップインパーで優勝を決めた瞬間 ガッツポーズはなし。しかし満面の笑みが83試合ぶりの勝利の喜びを物語っていた。
じつはスピース、少し前にスランプに陥った原因を打ち明けていた。「2018年のはじめに左手に骨の欠片が見つかった」。彼がいう欠片とはプロ野球選手などに多い通称「ねずみ」。正式には離断性骨軟骨炎で剥がれた骨軟骨片が動くことで痛みを発症するというもの。
「いまとなればすぐに手術で治せば良かったと思うけれど、そのときはテーピングをして痛みに耐えながら試合に出続けてしまった」
痛みのせいでスウィングを崩し取り組んでいた改造にも失敗。長く低迷することに。しかしここ半年ほど痛みがない状態でクラブを振れるようになりかつての輝きを取り戻した。
「長いゴルフ人生、いろいろある」と達観するスピース。「でも僕はまだ27歳。これから長いよ」。それにしてもなぜいままで手の故障を黙っていたのか? 「言い訳はしたくなかったから」という理由を聞くと若くして世界の頂点を極めたプロゴルファーの覚悟を感じずにはいられない。
長いトンネルを抜け2014年の初出場でいきなり準優勝、15年優勝、16年も2位と相性の良いオーガスタでどんなプレーを見せてくれるか注目だ。