「一年かけて、マスターズを見据えてセッティングを決めている」
海外メジャー「マスターズ」を制した松山英樹。そのクラブセッティングにも注目が集まるが、松山が契約するダンロップの担当ツアーレップ・宮野敏一氏は「実は一年をかけて、マスターズに向けてセッティングしているところがあるんです」と明かす。
「たとえば(昨年の)秋口には『3Wや3Iとかもマスターズの何番ホールで使えそうだ』と言ったような話も出ていました。マスターズを見据えてやっている感じでしたね」(松山担当ツアーレップ・宮野敏一氏、以下同)
とはいえ、そもそもマスターズで使えるかどうか以前に、松山の好みに合うモデルであるかどうかは非常に重要なところ。松山のツアーレップを担当する中で「多くを語る人ではないからこそ、時間をかけて情報を蓄積して、だんだん好みがわかってきました」と宮野氏。加えて、松山が昨年末から目澤秀憲コーチと契約を結んだことも大きいという。
「目澤コーチが来てから松山君がよく話すようになったので、松山君自身も頭の中が整理されたのだと思います。昨年までとは違い、『今このクラブでこういうスウィングをしてこうだから、こういうのがいいんじゃないか』というようなスマートなやり取りができていました」
「髪の毛数本ぶんの見え方」までペイントで調整
宮野氏によれば、松山が好むドライバー形状はプロ入り前から愛用していた「スリクソン ZR30」のような形状。
「ですがZR30はヘッドサイズが小さめです。現代の大型ヘッドサイズのモデルから選ぶとなると、つかまり系のヘッドが合うのでは、というようになってきていました」
昨年には松山がスリクソンの2021年モデルドライバー「ZX5」「ZX7」を即実戦投入したことも話題となったが、最終的にはZX5を選択し、マスターズでも使用していた。
当初は「私も松山君もZX7が良いと思ってテストしていたのですが、調整幅があることで迷いもあったのと、シンプルなつかまり系でZX5のほうが少し飛んだのもありますし、やさしいほうを好むというのもあったので(最終的にはZX5を選択しました)」と宮野氏は振り返る。
モデルを選んだら、そこからさらに「構えた時の見え方の調整」を行うと宮野氏。
「私がクラウンとフェース上部の境目をペイントして、(見え方を)調整しているんです。現場で髪の毛数本ぶんの見え方まで調整しますね。ヘッドの基本性能が高かったので見え方などの微調整ですが、見え方で構えにも反応が出てしまうので、非常に大きい部分です。(テストでは)そこをクリアすると打音など、次のステップに進みます」
ルックスにこだわる松山に合わせて、宮野氏もツアー会場で試合当日の朝の練習でも作業。「上手く書けないと、ペイント待ちになったりして、たまに練習場で書いたりもしていました。昨年は練習場で毎日書いたりしていましたね」と宮野氏は語る。
ドライバーのシャフトについては、たとえば昨年のPGAツアー最終戦「ツアー選手権」ではグラファイトデザイン「ツアーAD XC」を組み合わせていたが、マスターズでは以前から愛用していた「ツアーAD DI」に。
「シャフトについては、何がいいのかはまだ分かっていないところもあるのですが、ここまで使ってきている『DI』については、“こうなる”というのが染みついているので。飛ぶのを探して変えていくというのも一つの方法ではあるとは思いますが、自信を持って打てるシャフトだと思います」
アイアンはもちろん、ウェッジにもこだわる
アイアンは「スリクソンZフォージドアイアン」を採用しているが、宮野氏によれば「『もっとスピンが多いほうが良い』という高い望みがあって、まだそこまで達してはいませんが、それを追い求めつつ、好みの顔もあるのでいろいろ試したりしています」という。
「アイアンの見た目は、本当にオーソドックスな日本のアイアン形状、和顔が好みですね。松山君は練習ラウンドなどで、いろいろな人のクラブを見るのですが『やっぱり自分のが一番良い』と話しています。市販されている『スリクソンZフォージドアイアン』はほとんど松山君の使用するモデルと変わらないですよ」
シャフトは「ダイナミックゴールドS400」。「プロにとっても重いシャフトですが、松山君はその重さをボールに乗せて打てる」と宮野氏。また、ウェッジのソールの削り度合いにも事細かいリクエストがあるという。
「ソール形状も、単純にラウンドだったりフラットではなく、ラウンドにフラットが混ざっていたりなど、松山君の発想でいろいろ試します。フェースを開いて使うタイプなのでソールの形状は大切になると思います。コースによってバウンスを変えたりはしないですが、マスターズに向けて新鮮な溝のウェッジで2週間前くらいから慣らしながら使っていました」
パターのグリップも試行錯誤
また、マスターズで話題となったのが、パターのグリップがラムキン製の太グリップに変更されていたこと。これについても「パターはグリップを変えると重さも結構変わりますし、太さもですがすごく大きなアイテムの一つです。パターのグリップはかなり試行錯誤しました」と宮野氏。
松山が愛用するツアーボール「スリクソンZスターXV」は今年2021年モデルにリニューアルされたが、これもマスターズに投入。「(ニューモデルに替えたことで)ボール初速が上がったのと、スピンも入ったことが大きかったです」と宮野氏は語る。
「(松山のボールテストでは)打感や打音、パターの打音をクリアしないと次のステップに行けないのですが、そこをクリアして性能も高いものができたので、ちょうどやりたいことにハマりました」
ドライバーからパター、ボールに至るまで、すべての道具に強いこだわりを持つ松山。宮野氏によれば松山自身も「道具は好きなタイプ」だという。
「ツアーレップとしては性能も良くなった新しいものを使って欲しいというのはメーカーのレップなら当たり前ですが、そのあたりはポジティブにとらえて(テストして)くれるのでありがたいですね」
良さそうものは試して自分に合えば取り入れる。宮野氏の言葉から見えてきた、こだわりを持ちつつ柔軟性もある道具選びが、マスターズ制覇の要因の一つになったのかもしれない。