「もし勝ちたいならちゃんと1打にコミットとしてプレーすべきだ」
「フィル!」「フィル!」の大歓声。人数制限はあるもののおよそ1万人が最終18番のフェアウェイに雪崩れ込み、プレーしている本人たち(ミケルソンとブルックス・ケプカ)がグリーンにたどり着くのに苦労するほどの大騒ぎ。さながら3年前ライバルのタイガー・ウッズが最終戦のツアー選手権で復活優勝を遂げたときのような光景が再現された。
サングラスで目元の表情はわからなかったが、タップインでウィニングパットを決めたあとキャディを務めた弟のティムとがっちり抱き合いミケルソンは全身から喜びを爆発させた。
「またきっと勝てると思いながらハードワークをこなしてきた。今日は本当に素晴らしい日。こうして勝てたこと、じつはいまのいままで信じられなかった。気持ちを先走らせることなく現在(プレゼント=この瞬間)に集中してプレーしたのが良かった」
ボーンズの愛称で知られ現在ゴルフ中継のレポーターを務めるジム・マッケイキャディとのコンビでメジャーに勝ってきたミケルソンだが今回の相棒は弟。初日から「風の読みが素晴らしい。いい仕事をしてくれている」とティムを絶賛したが最終日も弟のナイスアシストが道を切り開いた。
「最初の6ホールは曖昧な気持ちでプレーしていた。で、6番を終えてティムにこういわれたんだ。“もし勝ちたいならちゃんと1打にコミットとしてプレーすべきだ”とね。ハッとしたよ。結果はコントロールできないけれど、どういうショットを打つべきかきちんと決めて自分のスウィングにコミットすることはできる。そう思って打った7番のティショットが素晴らしかった。で、バーディ。そこからは1打1打にコミットしていいプレーを続けることができた」。
これまでのメジャー最年長優勝記録は1968年にジュリアス・ボロスが達成した48歳4カ月18日。それを2年半以上更新したことについては「もしかしたらこれが自分にとって最後の優勝になるかもしれない。そう思う人の方が多いだろう。でもティムや妻のエイミーは僕を信じてくれている。まだまだ勝つことは可能だし年齢によって勝てるとか勝てないと決めつけるのはおかしい。もちろんチャンスはある。ただ若い頃よりも努力は必要だけれどね」。
年を重ねながら第一線で活躍し続けることで犠牲を払っていることは? という問いにミケルソンは「食べること」と即答した。「我慢しているよ。若い頃に比べて量も減らしたし体のことを考えて食べるようになった。新陳代謝が落ちている分食べ過ぎると体の負担が大きい。おかげさまで朝の目覚めはいい(笑)」
かつてミケルソンは来日時、試合会場からホテルへの帰り道にハンバーガーを10個以上食べてから夕食に出向く大食漢だった。そんな彼が食べたいものを我慢してメジャー獲りを実現する50代になったとは……。さすがとしかいいようがない。