走行距離25万キロのホンダアコード試合を転戦する一歳下の選手を支援
ゴールデンウィークに開催されたバルスパー選手権にマイケル・ヴィサッキという選手がマンデー予選を突破しPGAツアー初出場を果たした。
試合出場最後の切符を手にした彼が喜びの報告を父親にするシーンをたまたまPGAツアーのビデオ班が撮影。優勝したわけでもないのに歓喜の涙を流し興奮しながら電話に向かう姿が公開されると瞬く間にネット上で拡散され大きな話題となった。
そのビデオがトーマスの心を動かした。1歳年下(27歳)のヴィサッキが苦労しながら夢を追いかけ諦めずに戦い続ける姿を見てトーマス自らヴィサッキに連絡。バルスパー選手権で練習ラウンドを一緒にしようと持ちかけた。
しかし彼が持ちかけたのは練習ラウンドだけではなかった。7年前にプロ転向してからさまざまなミニツアーを渡り歩き、わずかな賞金を稼ぐために中古の愛車ホンダアコードで25万キロ以上を走行してきたヴィサッキは試合に出るだけでもエントリーフィー、交通費、キャディフィーなど出費がかさむため多少稼いでも赤字続き。「幸い自分は実家に住んで両親に支援してもらえているからまだまし。経済的理由で夢を諦めたプレーヤーは大勢いる」。
1試合で1億、2億を稼ぐ選手がいる一方で二軍以下は10万円稼ぐのにも四苦八苦している。ミニツアーで37勝しているヴィサッキもエントリーフィーを稼ぐため地元フロリダのコースでアルバイトをしなければならない。
「彼のビデオはなぜか自分の琴線を刺激しました。とても爽やかで素晴らしかった」とトーマス。今季はラウンド中の不用意な差別発言がもとでラルフローレンからスポンサー契約を切られるなど辛い時期もあった。そんなこともあって「誰かの役に立ちたい」という思いが募っていた。
「これからコーンフェリーツアー(下部ツアー)のQスクール(プロテスト/予選会)に出るのもすごくお金がかかる。お金のために夢を諦めて欲しくない」というのが経済的な援助を申し出た理由。しかしそれがマスコミに知られ公になったことに「イライラしました。ひっそり誰にも知られずにやりたかったから」とトーマス。ちなみに金額は明らかにされていない。
デビューからトントン拍子で優勝を重ね20代でメジャー獲り、年間王者に輝くなどツアーの中枢にいる選手が「できることはなんでもしたい。同じフロリダだしプライベートでもゴルフをします。自分が持っているすべてを総動員して彼がツアーで戦えるようになるまでサポートしたい」(トーマス)。
「有難い。出ていくお金のことを考えず自分のゴルフに集中できますからね」と学生時代アメフトのコーチからスカウトされた経験もある巨漢ヴィサッキは屈託ない笑顔を見せる。
彼の話題はスポンサー筋にも広がりチャールズシュワッブチャレンジにも主催者推薦で出場したが予選落ちに終わった。それでも「決して届かない差ではない」と感じている。トーマスの支援を受け無名のゴルファーが夢に向かって付き進む。