2番、3番「連続ダボ」からつかんだ栄光
2番パー4でドライバーを大きく右に曲げ、4オン2パットのダブルボギー。3番パー3ではバンカーにつかまり、2打目が寄らずに3パットの連続ダブルボギー。
笹生優花選手は、全米女子オープン最終日、スタートから3ホールでスコアを4つ落としていました。その時点でレクシー・トンプソン選手とは5打差。レクシー選手が5番でバーディを奪ったことで、その差は6打差へと広がっていました。
それから数時間後、日本とフィリピン両方の国籍を持つ笹生優花選手と畑岡奈紗選手の日本勢ふたりが全米女子オープンのプレーオフを戦っているとは、誰も予想できなかったのではないでしょうか。
試合が大きく動いたのは、やはりサンデーバックナインでした。出だしの連続ダボから立ち直り、笹生選手のショットはラウンド中に少しずつ良くなってきていました。
そして、ひとつ前の組の畑岡選手の後半のプレーはキレキレの一言。ラインの出ているドライバーショットでフェアウェイをとらえ、切れ味鋭いアイアンショットでボールをピンに絡めて、スコアを押し上げていきます。畑岡選手のその姿は、ひとつ後ろをプレーした笹生・レクシー両選手の目にも入っていたはずです。
そして、レクシー選手に異変が起こります。結果を見れば彼女の後半は「41」というスコア。らしくないミスが後半になるにつれて増えてきました。序盤に連続ダボを味わった笹生選手も、緊張しているのは自分だけじゃないんだ、と感じたかもしれません。崩れていくレクシー選手と対照的に、落ち着いたプレーを取り戻し、16番、17番とバーディを重ねていきます。
畑岡・笹生・レクシーの3選手誰が勝ってもおかしくない最終盤の攻防でしたが、結果的には日本勢ふたりでのプレーオフとなりました。2019年に渋野日向子選手が全英女子オープンに勝ってから2年、松山英樹選手がマスターズで日本勢初優勝を挙げた年に、日本勢同志のプレーオフが海外メジャーで見られるとは……信じられない思いだったのは、きっと多くのゴルフファンの方々と同じです。
プレーオフでは、2ホール続けて畑岡選手がティショットをラフに入れ、笹生選手はフェアウェイをキープするという展開。ここで見事だったのは畑岡選手です。全米女子オープンの絡みつく粘っこい芝から見事な技術で2ホール続けてチャンスにつけてきました。あとひと転がり、あとひと筋……勝負の行方は本当に紙一重です。
そして迎えた3ホール目。前の2ホールとは対照的に、畑岡選手がフェアウェイをキープし、笹生選手がラフにつかまります。
ただ、ラフにつかまったといえど笹生選手のティショットはキャリー270ヤードとものすごい飛距離が出ていました。残りは109ヤードの軽い打ち上げ。そのセカンドショットが素晴らしかった。グリーン手前から上手く寄せ、ピン手前のラインにつけます。そして、バーディパットを沈め、19歳でのメジャー初優勝を果たしました。
昨年はブライソン・デシャンボー選手が圧倒的なパワーで飛ばし、ラフからでも上手く寄せて全米オープンのタイトルを獲りましたが、プレーオフ3ホール目の笹生選手のプレーは、笹生選手のパワーと技術、両方の高さを示す見事なショットでした。
それにしても、どちらにも勝ってもらいたい……いや、どちらにも負けて欲しくない。見ている間はついそんな心境になってしまいました。日本女子オープンをアマチュアで勝ち、その後ひとりアメリカに渡り、苦労しながらも腕を磨いてトップ選手にまで上り詰めた畑岡選手。圧倒的なポテンシャルを誇り、一気に世界のトップレベルまで駆け上がってきた笹生選手。どちらも素晴らしいプレーでしたし、どちらが勝ってもおかしくない戦いでした。