パク・セリの優勝が韓国ゴルフの歴史を変えた
パク・セリが米ツアーデビューの年に全米女子オープンと全米女子プロゴルフ選手権を制しメジャー二冠に輝いたことで韓国に空前のゴルフブームが巻き起こったのが1998年。まだ20世紀のことだった。
彼女の活躍に触発されたパルパル世代と呼ばれる1988年生まれのインビー・パークやシン・ジエが次々とメジャーチャンピオンに輝き、21世紀は瞬く間に韓国勢がゴルフ界の勢力地図を塗り替えた。
日本でも同じような現象が起きている。米ツアー本格参戦4年目、2009年のエビアンマスターズで宮里藍が優勝。アメリカで通算9勝を挙げ世界ランク1位に輝いたが、彼女の活躍に刺激を受けプロを目指したのが98年から99年に生まれた黄金世代の面々だ。
パク・セリが衝撃的なメジャー2勝をさらったとき10歳前後だった少女たちが10年後に米ツアーで勝ち始めたのと同じく、2009年の宮里の米ツアー初勝利のとき10歳前後の少女たちにとって世界の舞台はお手本にすべきロールモデルのおかげですでに身近にあった。
世界ランク1位になった宮里藍に憧れた世代が主役に
黄金世代の畑岡奈紗が2016年の日本女子オープンで史上初のアマチュア優勝を遂げて世界への挑戦をはじめると、2019年には畑岡と同世代の渋野日向子が全英女子オープンで海外初挑戦にして初優勝の快挙。日本勢42年ぶりのメジャーチャンピオンに輝き全世界から「スマイリングシンデレラ」と呼ばれ注目を集めた。
すると黄金世代を凌駕する勢いで2000年度生まれのプラチナ(ミレニアム)世代と、そのさらにひとつ下の世代が頭角を表す。現在国内ツアーの賞金ランクは黄金世代の小祝さくら(98年生まれ)と、そのひとつ下の世代の稲見萌寧(99年生まれ)が1位と2位、プラチナ世代の古江彩佳が3位につけ、2001年生まれの笹生優花、1999年生まれの原英莉花、2000年生まれの西村優菜と続いている。
「経験がないと勝てない」といわれた時代はいまは昔。20歳前後の選手がベテラン並みのメンタルで 次々とタイトルを獲得している。
そして今回の全米女子オープンでは笹生と畑岡がプレーオフで相見えるという夢のようなできごとが現実になった。樋口久子、岡本綾子、小林浩美、宮里らが紡いできた女子ゴルフの伝統を19歳と22歳の若い世代が最高峰のメジャー対決へと昇華させた。
「ゴルフはアジア人に向いていると思う」と宮里がいっていたことがある。ゲームに必要な忍耐力、そして器用さ。もともとアジア勢に備わっていた特性にパワーをプラスしたのが笹生のゴルフスタイルだ。
タイガー・ウッズともローリー・マキロイともいわれるダイナミックなスウィングは、マキロイ本人の目にも止まりSNSで笹生に直接賛辞を贈った。
19歳11カ月17日での大会最年少(タイ)優勝の対価は賞金100万ドル(約1億1千万円)。今回日本勢対決を目の当たりにした少女たちがこれからまた世界を目指すだろう。そう、強さは伝播する。