7~9番アイアンだけP7MCにチェンジ
海沿いのリンクスがリンクスらしからぬ表情を見せた4日間。コロナの濃厚接触者に認定され全英を欠場したバッバ・ワトソンは大会前「皆が強風と雨の中、厳しい戦いをする姿を自宅のソファーでゆっくり観戦させてもらうよ」とSNSに綴ったが彼の予想を覆し舞台のロイヤルセントジョージズは穏やかな表情を見せた。
最終日も雲ひとつない青空が広がり選手たちは半袖姿。全英らしからぬ景色だったが、天候さえモリカワに味方したようだ。ルーイ・ウーストハウゼンに1打差の2位からスタートした彼は前半3連続バーディでトップに立つと、抜群の安定感で一時後続に4打差をつけ独走態勢。
1組前のジョーダン・スピースの追い上げも届かず、4アンダー66(ノーボギー)で回り勝利をもぎ取った。ちなみに通算15アンダーはロイヤルセントジョージズで行われた全英のトーナメントレコードでもある。
歴史的快挙について訊かれると本人は「24歳にして自分の足跡を振り返るというのはまだ実感もないし、歴史的といわれてもピンとこない」。たしかに19年半ばにプロデビューしてからまだ2年しかたっていないのだから彼の言葉にも頷ける。
優勝に至るまでには的確で迅速な準備があった。モリカワにとってリンクスでのプレーは前週のスコティッシュオープンが初めて。慣れない芝とラフに苦しみ71位タイと下位に沈んだ。
するとモリカワは最終日の夜にテーラーメイドのツアー担当A・リートフィールド氏に電話をかけ「ショートアイアンがいつものようにキレていないと感じた」と打ち明けた。ショットメーカーのモリカワにとってこれは大きな問題だ、と判断した担当者は考えを巡らせモリカワがアメリカで普段使っている「P730」ではなく「P7MC」に変更することを提案した。
「ソールの形状の違いです。P7MCのほうがリーディングエッジのヒール部分が削れておりバウンスも少なくなっているのでリンクスの芝から切れ味良くスパッと打てると思ったのです」
翌月曜日、さっそくP7MCのテストが全英の会場で行われた。「P7MCのほうが出球の角度が高く打球音も明らかに違いました。自在に球を操れていたしコントロール性も良かった。それでも全部を替えたわけではなく7番、8番、9番をP7MCにしてあとはいつものアイアンを使うミックスセッティングで戦うことに決めました」(リートフィールド氏)
クラブチェンジの効果はてきめん。「たまにトラブルもあったけれど上手く脱出できた」(モリカワ)と4日間でボギーわずか4つという完璧なゴルフを見せてくれた。
世界最古のメジャーで勝者に与えられるクラレットジャグ。それを手にしたモリカワは笑顔でしげしげと眺め天にかざしたあと愛おしそうに抱きしめた。日系のチャンピオンは間もなく東京オリンピックにもやって来る。