東京オリンピック女子ゴルフで銀メダルを獲得した稲見萌寧。大舞台でも高いパフォーマンスを発揮した=ゾーン状態に入ることができた理由を、プロも教えるメンタルコーチ・池努が稲見のメンタリティから紐解いた。

「楽しむ」「チャレンジする」という思考でプレーしていた

東京オリンピックのゴルフ競技、盛り上がりましたね。男子では松山英樹選手が最後までメダル争いを繰り広げ、女子では稲見萌寧選手が史上初の銀メダルを獲得し注目されました。4年に1度、さらには日本開催という日本人アスリートにとっては人生に一度きりの特別な大会の中で、今回は銀メダルを獲得した稲見選手やその他女子選手の今大会でのメンタリティがどのようにパフォーマンスにつながったのかを試合後のコメントなどから考えていきたいと思います。

画像: 東京オリンピックで銀メダルを獲得した稲見萌寧(写真は東京オリンピック 撮影/服部謙二郎)

東京オリンピックで銀メダルを獲得した稲見萌寧(写真は東京オリンピック 撮影/服部謙二郎)

先に今回のような特別な試合で最高のパフォーマンスを発揮できる心理状態を表す言葉「ゾーン」についてまずは簡単に確認していきましょう。

このゾーンという言葉は日常でのゴルフや解説者も使う言葉ですよね。「今日の前半は俺ゾーンに入ってたな」「〇〇選手は今ゾーンに入ってますね」このようにハイパフォーマンス状態を表す言葉で使われています。

「ゾーン状態」を分かりやすくたとえると子供が公園の遊具で夢中になり遊んでいる、またはアクション系のゲームに時間も忘れて没頭している状態をイメージするとわかりやすいです。つまり、誰もがこのゾーンを多かれ少なかれ経験しているのです。そして、そのゾーンに入る大切な条件があります。

公園の遊具で夢中になって遊んでいる子どもをイメージしてみてください。次の条件すべてがあてはまるはずです。

・適度なチャレンジと緊張感がある→頑張ればできそう!
・チャレンジが楽しいと思えている→できたらすごいな! 楽しそうだな!
・目の前の行動へ注意が向いている→こうすればうまくいきそう!
・達成動機がある→もっとできるようになりたい(成長・レベルアップしたい)!

このような状態のときに子どもたちは遊ぶことに没頭し時間も忘れて成長し、最終的に遊びもうまくなる(成果につながる)わけです。子どもはもちろん他者評価や結果を出すために遊んでいるわけではないですね。あくまでも楽しいから、できるようになりたいから夢中になっているのです。この子どもが遊びに夢中になっている状態にゾーンのヒントがあります。ここで本題に戻していきましょう。

結果論になりますが今回の東京オリンピックで9位だった畑岡奈沙選手と銀メダルを獲得した稲見選手を比較すると稲見選手の方が上記のゾーンに入る条件に近かったようにコメントから推測できます。

畑岡選手は試合後のインタビューに次のように答えています。

「金メダルを目指してやってきたので、悔しいです」

「国を代表してプレーしているので、もっといいプレーをしたかったが、独特の雰囲気があった」

楽しむことや特別な大会へのチャレンジではなく、オリンピック前から金メダルという結果を意識して目指し、国を背負ってプレーするという「結果重視」「使命感」に近いマインドが過度のプレッシャーを生み出した可能性があるのではないでしょうか。

一方、稲見選手はどんなメンタリティだったか。出場60人全員が4日間を戦い、予選落ちもないオリンピックの試合環境から「緊張しなかった。(今回の試合は)練習ラウンドっぽい」「気楽に楽しくできる」と言い、銀メダル獲得後に「ゴルフの歴史を変えましたね」と記者から問われると「そう言われると、重大な任務を果たしたのかな」と答えています。

後から考えれば日本ゴルフ界初のメダリストになり重大な成果をあげたとプレー後に感じているのです。重い責任を背負ってプレーした畑岡選手とはプレッシャーの大きさが違うはずです。また、「(五輪は)夢舞台だったが、いい夢のまま終われてよかった」と文字通り“夢中”になりプレーできていたことが伝わってきます。

これらの話はすべてコメントからの推測になりますが、稲見選手は上に挙げた子どもの例と同じゾーンに近い心理状態だったのではないでしょうか。少なくとも畑岡選手ほど「結果」や「使命感」を意識せずに「楽しむ」「チャレンジする」という思考でプレーしていたことがパフォーマンス発揮につながったと推測できます。

今回ご紹介したゾーンに入るための条件は一般のゴルファーの方も活かせる内容だと思います。最近、スコアや順位という結果にこだわり過ぎていた方は今一度、楽しみつつチャレンジする思考にシフトしてみるのも手かもしれませんね。

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