会場を埋め尽くしたギャラリーが“パティアイス”の大合唱。パティはパトリックの愛称。アイスは無表情の鉄仮面でプレーをするカントレーに与えられた誇り高き称号(?)。
最終日は終盤まで同組で丁々発止のプレーを続けたデシャンボーに対する声援の方が多かったが17番パー3でティショットを池に入れながら3打目を3メートルに寄せてボギーを拾い、1打ビハインドで迎えた最終ホールで6.5メートルのバーディパットを鮮やかにねじ込みデシャンボーの背中をとらえた場面では、カントレーへの声援がデシャンボーを上回るほどに。
プレーオフでは終始デシャンボーがパットを決めれば優勝のシーンに何度も直面しながら終始冷静なゴルフでクラッチパットを入れ続け、逆にデシャンボーが決めきれず決着は6ホール目までもつれ込んだ。
この日、本戦も含めると5度目の18番。ティショットが30ヤード置いて行かれながらカントレーは5.5メートルのバーディパットを沈めて小さく2度拳を握り勝利を確信した。
「耐え切った。自分の小さな世界に閉じこもることができた」と勝因を口にしたカントレー。
クリークにつかまるピンチでもデシャンボーがチャンスにつけても一貫して鉄仮面を被って勝ち切った。さすがはポーカーフェースで鳴らしたメジャー6勝のニック・ファルドが「次に世界イチになるのは彼」と推すだけのことはある。
一方のデシャンボーには悔いが残った。金曜日に60をマークして優勝戦線に浮上したが、そのときも18番で1.8メートルのバーディパットを決めていれば夢の50台をマークするところだった。そしてプレーオフでは3メートル以内のクラッチパットを外し続けパティアイスに勝ちを譲った。
デシャンボーは大会前ワクチン接種を受けないと発言しバッシングを受けた。そんなこともあって60をマークした日も記者会見を拒否。2位に終わった最終日も記者からの質問に答えず会場を後にした。
優勝が2億円弱。2位のデシャンボーもおよそ1億2千万円の賞金を手にしたが心は晴れなかった。
余談だが“パティアイス”と呼ばれたのはカントレーいわく「今週がはじめて」。何人かの熱狂的ファンが初日からカントレーの組について「パティアイスと叫び続けていた。これまででもっとも好意的かつやかましい(笑)声援だった」そうで、数人の輪から広がった愛称がプレーオフでは会場全体にこだました。ファンの声援を力に変え自分の世界に入ったパティアイスは最終戦のツアー選手権でも「何も変えることはない。自分のゴルフをするだけ」。こういうタイプが一番怖い。