PGAツアープレーオフ第2戦「BMW選手権」で2位フィニッシュしたブライソン・デシャンボー。しかし好順位にも関わらず会見や囲み取材もスキップし発言を控えたコースを去った。そのワケとは? 海外ツアー取材歴20年の大泉英子がレポート。

「BMW選手権」2日目に2イーグル、8バーディの60という驚異的なスコアを叩き出し、3日目を終えてパトリック・カントレーとともに首位に立ったブライソン・デシャンボー。最終日、17番ホールでこの日初めてのボギーを叩き、最終ホールでカントレーに並ばれ、6ホールに渡るプレーオフへ突入した。

最後はカントレーが約5メートル超のパットを沈め、今季3勝、通算5勝目を挙げた。一方のデシャンボーは2位になったことで、フェデックスカップ・プレーオフランキングで3位に。来週の最終戦「ツアー選手権」に向けて、総合優勝が十分狙える位置につけた。

通常、この位置でプレーを終えた選手は記者会見場に呼ばれたり、あるいは屋外で記者たちの囲み取材を受けるのが常であるが、デシャンボーはこの日、会見も囲み取材も受けずにコースを後にしている。今から3週前の「WGCフェデックス・セントジュードインビテーショナル」で開幕前に記者と会話したのを最後に、彼は中継局以外のインタビューには答えないようにしているのだという。

画像: PGAツアープレーオフシリーズ2戦目「BMW選手権」でパトリック・カントレーとのプレーオフに敗れ2位フィニッシュとなったブライソン・デシャンボー(写真/Getty Images)

PGAツアープレーオフシリーズ2戦目「BMW選手権」でパトリック・カントレーとのプレーオフに敗れ2位フィニッシュとなったブライソン・デシャンボー(写真/Getty Images)

ここのところ何かとお騒がせのデシャンボー。特に7月初旬からの度重なる事件や失敗の数々は、既に報道されている通りである。

昨年、スロープレーの件でブルックス・ケプカに名指しで批判されたデシャンボーだが、その後2人で顔を突き合わせて話し合いの時間をもったにも関わらず、2人の関係は悪化。現在は会話することも皆無だ。

9月下旬に開催予定の「ライダーカップ」には2人とも出場が決まっているが、ケプカは「ブライソンと一緒に組むこともないし、夜にチームメイトと会話するようなときでも、彼と話すことはない」と今の段階できっぱりと記者たちに宣言している。

記者からは毎週のようにケプカとの確執について質問され、大人の対応でやり過ごそうとするデシャンボーの努力も垣間見られたが、ケプカからの挑発もあり、さすがにそのやりとりに疲れたのかもしれない。

また、7月の「ロケットモーゲージクラシック」では、大会直前に長年に渡るエースキャディ、ティム・タッカー氏と袂を分かった。タッカー氏は、米国オレゴン州にある名門コース「バンドンデューンズ」のゲストの輸送サービス業に携わるためキャディを辞めた、としており、「ケンカ別れではない」とデシャンボーも釈明しているが、実のところは不明だ。練習時間が人一倍長く、何事にも細かいこだわりを見せるデシャンボーについていく、気力と体力に自信がなくなったのかもしれない。「全英オープン」以降は、自身のホームコースでインストラクターを務めているブライアン・ザイグラー氏がバッグを担いでいる。

そして「全英オープン」では初日を終え、1オーバーの74位と出遅れた彼が、ホールアウト後にインタビューを受けた際、「今のドライバーは最悪だ」と不満をあらわにした。これに対し、契約先のコブラ社のツアー・オペレーションマネージャーのベン・ショーミン氏は「彼がそんなバカなことを言って、本当に心が痛む」と怒り心頭。これに対し、デシャンボーはすぐに「そんなことを言って、本当に後悔している」と反省の弁を交えながら謝罪した。ちなみにショーミン氏は、ティム・タッカー氏が大会直前にキャディをやめた「ロケットモーゲージ」で、急遽キャディを務めた人物である。

そして極め付けは、彼は東京オリンピックへの出場のため、米国出発前に受けたPCR検査でコロナの陽性反応。出場を断念した。ウイルス感染ばかりは本人も十分気をつけていたはずだし、仕方のないこと。国を代表してオリンピックで戦えないことに遺憾の意を表明していたが、問題はここから。

彼は「WGCフェデックス・セントジュードインビテーショナル」の大会前に、数人の記者を前に話をしていたときに「僕はワクチンを接種していない。ワクチンは打つ必要がないと思っている。まだ僕は若いし、健康だ。僕よりもワクチンを必要としている人が接種したほうがいい。コロナにかかったけど、ワクチンを接種しなかったことへの後悔はない」と発言。これが記事になると、人々の反感を買った。

それ以来、デシャンボーは記者たちに対し、沈黙を貫いている。おそらくインタビューを受けても、反感を買うような記事を書かれるくらいなら、黙っていたほうがマシだという理屈からであろう。あるいは、自分の失言のせいで繰り返されてきた「負の連鎖」を止めたいからなのかもしれない。いずれにせよ、彼にとってもゴルフ業界にとっても、よくない流れが続いている。

そんなデシャンボーが、次々に起こる「負の連鎖」から脱却するためには、何が必要なのか? 口をつぐんでしまうという消極的なことよりも、トーナメントで優勝すること、結果を残すことがまずは大切だと本人もよくわかっているはずである。何かをきっかけに、状況を好転させたいーーそのきっかけ作りにおいて、最高の舞台が今回の「BMW選手権」だったように思う。

プレーオフでは、パットがよく決まっていたカントレーよりも、飛距離のアドバンテージを生かして、ピンそばに刺すようなショットをつけるデシャンボーが有利に見え、デシャンボーの今季3勝目のほうが確率が高いようにも見えた。だが、最近いろいろと物議を醸していたデシャンボーに、ゴルフの神様は敢えて試練を与えているのかな、と思うくらい、何度も短いパットを外し、容易に勝たせてはくれなかった。

今季も残すところ、「ツアー選手権」の1試合だけ。デシャンボーが今大会で優勝し、フェデックスカップで総合優勝すれば、周囲の目も多少は変わるかもしれない。ここでいったんリセットし、ただの「お騒がせ男」から「絶対王者」になれるかどうかに注目したい。

This article is a sponsored article by
''.