コロナによって生じた私たちの環境変化
気づいたら、日本で新型コロナウイルス感染拡大が顕在化してから1年半以上の時間が経過しています。なかなか自分たちの生活が元に戻らず悶々とする日々が続いてはいますが、その一方で新型コロナによって「新しい生活様式」というものが幾つか根付いたのもたしかであり、個人的な感覚ですがその点はプラスになっているようにも思います。
その最たるものが「働き方の変化」であると感じています。私が勤めている会社(矢野経済研究所)は現在でも基本的に在宅勤務を推奨しており、私自身も殆ど出社することはありません(実はコロナ前から出社率の低い人間だったのですが……)。
出張や外出のない日は、個人で契約した自宅から自転車で3分程度のシェアオフィスに行って仕事をする日々が続いています。元々私の仕事自体が社内の他のメンバーとあまり交わることのない「自己完結型」のものが多いということもあるのでしょうが、それ(会社に行かずに仕事をすること)の不自由さを感じることはまったくもってありません。
それよりもむしろ、往復で2時間弱を要していた通勤時間を業務時間に充てることができる物理的なメリット、混んでいる電車に乗っての移動から解放さるという精神的なメリットを享受しているという意識のほうが遥かに大きいのが実情です。
仮にこの先コロナが収束したとしたら、私の会社も「コロナ前」のように会社という「ハコ」に人を集めて働くという従来型の勤務スタイルに戻る可能性もありますが、個人的には「コロナ前」の働き方に戻る必要は「まったくない」と感じている次第です(もちろん『新しい働き方』の普及によるデメリットも感じていますが、それを補ってありあまるメリットがあるというのが個人的な感覚です)。
その「新しい生活様式に即した働き方」として私が昨年から実証実験を行っているのが「スポーツワーケーション」。「ワーケーション」という言葉自体はここに来てようやく一般的な「フレーズ」として耳慣れてきたような気がしていますが、その明確な「定義」やその「恩恵、効果(ここで言う恩恵とは、ワーカーにとってだけのものではなく、それを採用する企業・経営者側、更にはそれを行う地方自治体にとってのものも含む)」というものが国内で広く認識、共有されているとはまだまだ言えず「試行錯誤」の状態が続いていると言って良い状態にあると思います。
スポーツワーケーションで日本をハッピーに?
未だ黎明期にあると言える日本の「ワーケーション」ですが、上述したように私はその中でも「スポーツワーケーション」の普及による採用企業の価値・生産性向上、地域活性化、それによるスポーツ産業の再活性化を目指した活動を行っています。
こう書いてしまうと何だか仰々しいのですが、平たく言うと「スポーツをしながら働くこと」「働きながらスポーツをすること」「仕事とスポーツに並列で取り組めるような環境を作ること」で、従業員も会社も地域住民も、更にはそれを取り巻く産業側みんなが「ハッピー」になれる座組を作っちゃおう、というような表現になります。
昨年(2020年)秋に長野県佐久市の「サニーカントリークラブ」様の全面協力の下、3回にわたり行った「ゴルフ場におけるワーケーション実証実験」や、神奈川県三浦市において実施した「フィッシングワーケーション」「スポーツワーケーション」など、幾つかの座組でスポーツワーケーションを実施してきました。
正直に言うと、これまで実施してきた実証実験のいずれも「華々しい成功を収めた」とは言えない結果に終わっており、私が考えるような「理想」と、企業や自治体側が考えるような「現実」とのギャップはまだまだ大きく、課題山積というのが実情です。
しかしながらそうしたギャップも「やってみなければ分からなかったこと」が多く、決して無意味ではなかったと感じています。私と仲の良いスポーツ産業関係者からは「それって三石さんがやりたいだけなんじゃないの~?」という冷やかしの声や、当社の経営陣からの「で、それ(スポーツワーケーション)が当社にもたらす具体的なメリットは何なの?」というツッコミが入ったりもしているのですが、まあそのあたりはできる限り長い目で見て頂きたいと思うのです
ヘレナ国際カントリー倶楽部のワーケーションプラン
そんな「スポーツワーケーション」ですが、少しずつその「輪」が広がりつつあるようです。過去に私が寄稿した「ゴルフ場でワーケーションはアリ?ナシ?」という記事を見た福島県の「ヘレナ国際カントリークラブ」様が、独自の「ゴルフDEワーケーション」を商品化されたとの情報を聞きつけ、9月7日から9日までの2泊3日で取材を兼ねた体験をしてきました。
先ずヘレナ国際カントリー倶楽部様のロケーションについて紹介したいと思います。同ゴルフ場は福島県いわき市南部の「浜通り」と呼ばれる太平洋岸にあるゴルフ場や乗馬クラブなどが併設された「ゴルフ場を中心としたリゾート施設」という立ち位置のゴルフ場です。
福島県といっても、茨城県を越えてすぐのところにあり常磐道のインターチェンジからも近く、関東近辺のゴルファーにとっては福島県の中でも「近場」に位置するロケーションと言えます。近くにはかの有名な「スパリゾートハワイアンズ」もあります(余談ですが、このゴルフ場から1キロ程度のところに私の両親がリタイアして暮らしていたりもします)。
ヘレナさんの特徴は何と言ってもその「広大な敷地面積」に尽きるのではないかと思います。同コースは以前「いわきグリーンヒルズカントリークラブ」という名称で営業を行っていました。これは想像の域を出ない話なのですが、バブル期にゴルフ場やホテル、別荘やレセプション会場などを含めた一大リゾート施設の建設を目指して着工したものの、建設途中でバブルが崩壊したことにより建設は中断、先立って完成したゴルフ場だけが営業をスタートしたのではないかと思います。
実は以前、旧名称時代にこのコースでラウンドしたことがあるのですが、広大な敷地の中に人気のない巨大施設が数多く並んでいて少し怖かったのを覚えています。なお現在経営は株式会社ヘレナ・インターナショナルに移管していて、ゴルフ場の他上述した「乗馬クラブ」やいちご狩りが楽しめる「ストロベリーランド」など広大な敷地を生かしたリゾート施設として少しずつ手が加えられているようです。
またゴルフ場においても今回ご紹介する「ワーケーション」の他にプロによる4泊5日の「滞在型短期レッスンプラン」や35歳以下を対象とした「ヤング会」の開催など、様々な新しい取り組みが展開されています。
棟立ての「ヴィラ」利用と「ハーフプレー3回券」がワーケーションのウリ
今回は9月7日から9日までの「2泊3日ワーケーションプラン」を利用させて頂いたのですが、そのサービスの内容は以下の通りです。
・滞在中3回の「ハーフプレー」が利用可能
・施設内の練習場(230ヤード打ちっ放し)は使い放題
・一棟タイプの「ヴィラ(別荘)」のツインルームを一人で利用(WiFi完備)
・2回の朝食付き
・以上のサービスが付いて、一人利用の場合平日で2万8800円、一部屋2人利用の場合は一人あたり2万1400円(いずれも税込)
なんといってもこのワーケーションのウリは3回のハーフプレーが付いているところなのではないでしょうか。
訪問初日は17時にチェックインしたこともありプレーはできなかったのですが、翌日の早朝と夕方、3日目の早朝の計3回チケットをしっかりと使い切りました。コース自体は18ホールなので、アウトかインいずれかを2回ラウンドするというスタイルになります。もちろんアウトのみを3回、インのみを3回も可能です。
使い放題、打ち放題の練習場は「日の出から日暮れまで使用可能」とのことだったので、初日のチェックイン後は練習場で汗を流しました。
宿泊はゴルフ場敷地内にあるヴィラ(別荘)を利用しました。私が宿泊したのはインコース10番グリーンのすぐ横にある「4号棟」。「玄関開けたらすぐそこがグリーン」というロケーションでした。
私が滞在していた期間、私以外にも何組かのワーケーション利用者がいたようなのですが、他の棟に宿泊していたこともあり他の人と物理的に接触する機会がありませんでした。感染リスクを考えれば理想的といえば理想的なのかもしれませんが、この大きな建物を独り占めして仕事(とゴルフ)に専念できる! という喜びを感じると共に、独りぼっちの寂しさ(広大な敷地の中の巨大な建物に一人で過ごす一種の“怖さ”)のようなものも感じたというのが正直なところでした。
フラットで広大なホールロケーション
同ゴルフ場のコースについても触れておきたいと思います。繰り返し述べているように、非常に広大な敷地の中に造られたゴルフコースなので非常に開放感のあるコースレイアウトです。比較的池が多いですが、それほど強烈なプレッシャーを与えているという訳ではないように感じました。距離の短いパー4は真っすぐ打つと2打目を狙い難くなるホールが多く、ティショットの戦略性が問われるコースなのではないかと感じました(私、ゴルフコースについて語れる程の見識を持ち合わせていないので、ヘレナ様もし間違っていたらご指摘ください)。
「情報と課題の共有」と「地域巻き込み」が今後のテーマ
このような形で2泊3日のワーケーション体験を行いましたが、今回のヘレナさんでのワーケーションの「仕掛け人」である株式会社ヘレナ・インターナショナルのフロントグループリーダである坂本大宗さんにお話を伺うことができました。
上述したようにゴルフコース以外の広大な敷地と施設を有するヘレナ様において、坂本さんは兼ねてから「ゴルフプレー以外の自社のリソース活用」を模索していたそうで、そんな折にコロナによる新たな働き方とゴルフ場活用方法の一つとして自社のゴルフ場と宿泊施設(ヴィラ)を複合的に活用したワーケーションプランを立案、会社に提案して実施に漕ぎつけたそうです。
「ゴルフ場の“ゴルフプレー以外”での有効な活用」という点では非常に共感を覚えたのですが、坂本さんのお話でとても印象的だったのは「ワーケーションを通じていわきの魅力をもっと多くの方に知って頂きたい」という点でした。
私の両親が長いこといわきに住んでいることもあって、私自身いわきの持つ様々な魅力を実感してはいるものの、意外と関東在住の人でその魅力を知っている人は少ないということも実感していました。「ハワイアンズ」と「メヒカリ(という魚)」、それと水族館「アクアマリンふくしま」くらいは知っている人がいるかもしれませんが、実は小名浜港が秋になるとサンマや戻りガツオが数多く水揚げされること(脂が乗っていて美味い)、梨など果物の産地であること、米スポーツブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店である株式会社ドームが「スポーツを介していわき市を東北一の都市にする」というミッションを掲げていること、実は市内に多くのゴルフ場があって冬であってもゴルフプレーが可能なこと(福島=冬はゴルフ出来ないと思っている人が殊の外多い)を知る人は少ないのが実情ではないかと思います。
「ワーケーションを一つのキーとしていわき市の地域創生に繋げたい」「ゆくゆくはいわき市の移住者促進、関係人口増加につなげたい」という坂本さんのお話に大いに共感した次第です。
坂本さんのお話を聞いて私が感じたこと、というか私がやらなければならないことも改めて明確になったような気がします。それは、ワーケーションを実施展開しているゴルフ場間の「情報と課題の共有」によるブラッシュアップの仕組みを作ること。
違う表現をするならば、各ゴルフ場に置ける「点の活動」を「線」でつなぎ「面」へと広げてゆくこと。具体的には「ワーケーション参加者に対する満足度や課題を抽出するためのアンケート調査内容の標準化」による「共通の情報収集と共有(現状把握と課題抽出の共通化と共有化)」のシステム構築、それらの情報を展開ゴルフ場間で「議論できる場」の創出、これら「データの蓄積」による「スポーツ・ゴルフワーケーションの優位性の“説得力向上”」を実現するために活動を継続する必要があると強く感じた次第です。
現時点ではまだまだ「点」レベルの活動に過ぎないゴルフを含めた「スポーツワーケーション」ですが、今回のヘレナ様での体験と坂本さんとのお話の中で「新たなつながり」のようなものがこの先増えていくような予感がしました。コロナによって私自身の活動も少なからず制限を受けていますが、2回目のワクチン接種も滞りなく完了したことですし、各ゴルフ場のこうした活動を情報やデータを以て「つなぐ」ための活動を今後も続けたいと思います。
写真提供/三石茂樹